【B】きみのとなり
4.水谷さんと過ごす時間 -嵩継-
クリスマスイヴ、仲間たちに助けられて準備を終えて、
オレはアイツにプロポーズをした。
翌日、婚姻届を提出したオレたちは、はれて夫婦と呼ばれる家族になった。
おふくろが他界して、ようやく手に入れたオレの新しい家族。
氷夢華と夫婦になって最初に向かったのはアイツの実家だった。
改めて、正式に夫婦に慣れたことを報告したオレの前に、
お義父さんは、結婚式のカタログを広げだした。
そのカタログを見るまで、考えもしなかった。
そうか……プロポーズと入籍で終わりじゃなかったんだな。
独り身だったオレと違って、
アイツにはアイツの幸せをお披露目すべき沢山の存在がいるんだ。
その現実を突き付けられた気がした。
何も言えなかったオレの代わりに、
氷夢華は、オレの誕生日に結婚式を挙げたいと告げた。
同意を求められるままに、オレは頷いた。
ただ……結婚式、披露宴といっても豪華なホテルの教会で結婚式なんて、
オレには想像できない。
それに……オレの結婚を知って、祝ってくれる身内はもうこの世に居ない。
だからこそ……オレはオレの居場所で、
柔らかな声に包まれながら祝福されたいと思った。
鷹宮教会。
病院と隣接する形で建てられた教会で結婚式があげられるなら当日仕事で来られない仲間も、
顔を出してくれるかもしれない。
仲間たちだけじゃない……。
オレと関わる人たちが、気軽に祝福してくれるそんな空間が出来れば。
氷夢華はオレの想いを受け止めて、
アットホームな結婚式に了承してくれた。
結婚式の準備が着々と進んでいく一方、
オレは、もう一つの望みが大きくなっていくのを感じていた。
オレの両親はもういない。
結婚式で一番傍でみまもって欲しいその人は、写真の中。
だけど……一人だけ、傍に居て欲しい人が居た。
結婚式の間、親代わりを務めて欲しい人。
水谷さん。
水谷結夏【みずたに ゆか】。
鷹宮のラスボスと海斗に呼ばれた、
オレにとっては頼もしい、母親代わりの存在。
リズ夫人もオレに優しく接してくれたが……、
鷹宮の家の西洋スタイルに息苦しさを感じていたオレの拠り所でもあった。
仕事の後、オレは病院の近くに借りられた水谷さんが住むマンションへと足を向ける。
移動途中に、ケーキを購入してお邪魔したマンション。
エントランスでチャイムを鳴らすと、
内側からエントランス前のドアがゆっくりと開いた。
エレベーターで8階まであがって、次に部屋の前のチャイムを鳴らした。
「いらっしゃい。
嵩継君、どうかしたの?」
「えっと……折り入って、お願いがあってまいりました」
「嵩継君、ご飯は食べた?
今からご飯なのよ。良かったら一緒に食べない?
氷夢華ちゃんが待ってるかしら?」
「あっ、ご飯頂きます。
氷夢華には今日、水谷さんの所に出かけること伝えてますから、
アイツは実家に顔出してると思います」
そう言うと招かれるままに、オレはスリッパをはいて家の中へと上がり込んだ。