【B】きみのとなり
何度かお邪魔した水谷さんの2LDKの家には、
小さな仏壇がある。
それは生まれて来ることが出来なかった、
水谷さんのお子さんの仏壇だった。
妊娠中に子宮がんが見つかった水谷さんは、
子宮全摘と共に赤ちゃんを失った。
そんな赤ちゃんに、オレはゆっくりと手をあわせて
もって来たケーキを供える。
「水谷さん、ケーキ、仏壇に供えたんで、
後で忘れずに食べてくださいね」
「まぁ、有難う。嵩継君。
ほらっ、ご飯出来たわよ」
そういってテーブルに並べられたのは、おふくろの味の数々。
焼き魚に、茶わん蒸しに、里芋の煮っ転がし、味噌汁、お漬物。
こんもりと茶わんによそがれたご飯。
両手をあわせてオレは、食事を頂いた。
食べ終わった後、緑茶を飲みながら水谷さんをじっと見つめた。
「あらっ、嵩継君。
ごめんなさいね。私としたことが……。
何か用事があって来てくれたのよね」
そう言うと、洗い物をしていた手をとめてエプロンで手を拭きながら
オレの方へと近づいてくる。
オレの正面に座った水谷さんに、意を決して言葉を続けた。
「水谷さん、1日だけオレの親代わりを務めていただけませんか?
オレの結婚式で、大役を頼みたいんだ。
ここに来てからずっと、息子みたいに可愛がってくれただろ。
おふくろも許してくれると思うからさ」
突然切り出したお願いに、驚いた顔をしながら、
水谷さんは頷いてくれた。
その代わり、ちゃんとおふくろに挨拶をさせて欲しい。
その言葉を受けて、久しぶりに両親の墓へとお参りした。