【B】きみのとなり
8.お前の名は海生 -嵩継-
生まれて来る子供の性別は、男だと言うことがわかった。
アイツのお腹をポコポコと蹴りくれるやんちゃ坊主は、
オレたちの予想よりも早く、外の世界に出たがったのか、
その日は突然訪れた。
当直をしていたオレの元に「破水したかも……」と氷夢華が一報が入る。
聖也さんに断りを入れてオレは病院から飛び出すとマンションへと、
駆け戻る。
マンションには、何枚ものバスタオルを巻いて、
出掛ける準備をしていた氷夢華が居た。
「氷夢華っ」
「兄貴、帰ってきてくれたんだ。
自分じゃ運転していけないし、
タクシー捕まるかなーなんて思いながら、
準備してたんだ」
そうやってオレにどっしりと構えながら言うアイツ。
「聖也さんに抜けさせてもらった」
そう言うと、氷夢華をマンションから連れ出して、
用意された入院セットの入ったカバンを手にしてオレの車へと誘導する。
「陣痛は始まってんのか?」
オレの問いに氷夢華は首を傾げた。
車の中から鷹宮へと連絡を取ってアイツの主治医を捕まえる。
妊娠中期頃から見られるようになったアイツの貧血を気にしながら、
アイツを病院へと送り届けた。
アイツを迎え入れてくれたのは私服姿の水谷さん。
「氷夢華ちゃん、いよいよね。
さて部屋に行きましょうね。
嵩継君は仕事あるでしょ。
こっちは私が見ておくから、とりあえず仕事に集中してきなさい」
そういって水谷さんは氷夢華を連れてアイツの病室になるはずの部屋へと向かっていった。
朝まで慌ただしく仕事をしながらもチラつくのはアイツのことばかり。
勤務時間が終わると、真っすぐに階段を駆け上ってアイツの病室へと顔を出した。
病室で氷夢華は痛みと格闘しながら、時間をやり過ごしているみたいだった。
「氷夢華ちゃん、陣痛が錠剤だけじゃこなくて点滴に切り替えたのよ。
少し前くらいからかしら、陣痛促進剤がききだしたみたいよ」
水谷さんが教えてくれるままにオレはそのままアイツの傍に居て、
痛みと向き合い続けるアイツの傍で、アイツが望む場所をさすり続ける。
少しでもアイツが楽になる様に。
陣痛開始から10時間くらいが過ぎた頃、アイツの出産は本格的になった。
助産師とアイツの主治医が立ち会う中、
合図に促されるように、いきむ氷夢華。
次の瞬間、何を思ったかアイツは「もうやだぁー。出るー」って叫んだ。
そんなアイツの叫びも、助産師さんは手慣れたもんでキャッチボール。