【B】きみのとなり




「イテっ。
 って、氷夢華、てめぇ何やってんだよ」



そうやって言い返す兄貴を黙って睨み返すとそのまま、
兄貴を置いて本館目指して歩き出した。


兄貴と喧嘩しに来たわけじゃない。
アタシは面接に勝ち残らなきゃなんだから。



アタシの幸せな未来の為に。



だけどアタシが歩く後から、
兄貴の足音が近づいてくるのはちゃんと知ってる。


それが……ずっと小さない時から知ってる兄貴だもん。




「って、氷夢華待てよ。

 何怒ってんだよ。アイツはユウカちゃん。
 ケアセンターの患者さんだよ」



そう言ってアタシに説明する兄貴。



「うん。
 患者さんだって言うのはわかってるから」




わかってるから……だけど兄貴を独占したいって、
そう思っちゃうんだもん。


あの日、兄貴に捨てられたアタシだから。 


そのままアタシは兄貴に連れられて病院長室へと訪れて面接を受けた。



面接現場には鷹宮雄矢【たかみや ゆうや】と名乗った病院長と、
水谷結夏【みずたに ゆか】と名乗った聴きなれない総師長っと呼ばれるポジションの女性。


世間話を中心にお茶を飲みながらゆったりとした時間が過ぎて、
その後は、一通りの手技の実技だった。




数日後、アタシは兄貴と同じ職場の同僚となった。


鷹宮総合病院放射線技師・橘高氷夢華。



新しいネームプレートをつけて、
兄貴の隣を颯爽と肩を並べて歩く
そんな夢の時間も、もうすぐ。


兄貴と一緒に働きたいって言うそんな夢が、叶おうとしていた。
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