【B】きみのとなり
6.突然の二人暮らし -嵩継-
院長と水谷さんの面接を終えたアイツはオレの帰宅にあわせて、
すき焼きを作って待っていた。
「兄貴、お帰り」
「ただいま。
あぁ、うまそー」
そう言ってダイニングに近づくと氷夢華は生意気なマセガキの頃のような口調で、
『先に手を洗ってから』っと懐かしい台詞を紡ぐ。
その声に従って洗面台で手洗いとうがいを終えてダイニングに戻ると、
冷蔵庫から冷えたビールが出される。
「氷夢華、悪いが俺はお茶で」
「えっ?
だって仕事帰ってきたじゃん」
「今日はERオンコールだから」
「ERオンコールって何?
ERは救命でしょ。
ERの専門が居るんじゃなくて?」
おいおいっ、大学病院と個人病院を一緒にするなよ。
「まっ、お前も無事に鷹宮に入れたらわかってくるよ。
ここの独自システムが。
まっ、今日はERオンコール。
電話一本で俺は召喚組だからビールは飲めねぇ」
そう言うと氷夢華は、ふて腐れたように二本の瓶ビールを片付けて
グラスに何時の間にら作っていたのか麦茶を注ぎ込む。
そんなアイツをじっと観察する。
再会した時から気になってた……何故かアイツが胃腸を弱らせているような気がして。
アイツが勤めていたJ医付附属は、オレが問題を起こした場所。
詳しくは教授のパワハラに苦しんでたゼミ仲間の女性陣たちを助けるために正義のヒーロー宜しく自慢の足で一発。
パワハラで卒論の成績を融通させていたなんて、
そんな事実は奴にもマズい為、卒業は出来たものの、
その後、研修で受け入れけて貰えるはずの病院から内定が消された。
そんなこんなで、あの病院にオレの居場所はない。
オレは教授殴っちまって破門された身。
まっ、今となっちゃ鷹宮に居られて雄矢院長の元で勉強が出来て良かったっ思ってっけど。
あの場所じゃオレは……ロクでもない野郎扱いだしな。
氷夢華のヤツが居て、オレの名前でも出して見ろ、
最後、陰湿なやり方で潰されかかってただろうし。
何言っても聞かないのはオレが一番知ってる。
アイツを……追い込んだのはオレだろうしな。
「嵩兄、大丈夫?
さっきからお箸進んでないよ」
心配そうにオレを覗き込むコイツの仕草は、あの頃から何も変わってねぇ。
「あっ、あぁ平気平気。
ちょっと考え事だ。
おっ、うまそーだな。
冷める前にトットと食っちまうか」
そう言うと氷夢華はオレのお皿に、すき焼きを次から次へといれていく。
食べきっては、すぐに補充されるお皿。
だけど肝心なアイツは、そんなに食べてない気がする。
J医で相当……ストレス溜めたんだろうな。
オレの名前を出して。
そんなことを推測しながら、オレはアイツのすき焼きを平らげた。