【B】きみのとなり
腹が満たされると、眠くなってくるのが人で
そのままソファーに持たれて考え事をしている間に、
睡魔が寄り添ってくる。
氷夢華が食べ終わった食器を片付けてくれる音をききながら、
夢の中へと入りこんでいた。
そのままソファーで眠ってしまったらしいオレの体には、
アイツがかけてくれたのか、オレの布団と毛布がかかっていた。
そのまま布団を自室のベッドに片付けて大きく伸びをする。
近くに置いている携帯も、着信があった形跡はなくオンコールの呼び出しもなかったことを確認した。
テレビをつけてソファーにボーっと座っていると起きてきた氷夢華がキッチンへと向かう。
「兄貴、おはよう。
少し寝過ごしちゃった。
ソファーで寝てたけど、風邪ひかなかった?」
「あぁ、久しぶりに寝落ちした」
「うん。のび太顔負けだったよ。
洗い物してたら、兄貴のイビキ聞こえてきたもん。
ベッドに運ぼうと思ったんだけど、無理だったから布団かけといたんだ。
アタシって出来る奥さんだよね」
奥さんって誰がだよ。
ったく、お前は。
俺もソファーから立ち上がってキッチンの方へと向かう。
「兄貴はテレビ見てていいよ。
アタシが朝ご飯作るから」
氷夢華は、そう言うとキッチンへと向かう。
キッチンからリズミカルな包丁のサウンドが響いてくる。
それと同時に、ガスコンロにかけられたフライパンに卵を割りいれる音が響く。
何時もなら、これからオレが作ってんだけどな。
マジ……アイツが今、家にいんだな・・・。
暫らく、リビングの窓から外の景色を望む。
朝の太陽の光が頼りなげに射し込む。
ふいにオレの携帯の背面が光る。
着メロが鳴り出す前に着信すると電話の向こうから成元御大の声が聞こえた。
用件のみ会話を交わして電話を切る。
「兄貴、電話誰?
もしかして彼女?とか」
「ばぁーか。
何言ってんだよ。ガキの癖に」
「ふふっ、冗談だよ。
嵩兄に彼女なんて出来るはずないじゃん。
海兄のこと今も忘れられないだろうしね。
嵩兄には海兄のことも理解したアタシみたいなヤツじゃないと無理だって」
おいおいっ。
氷夢華、アタシみたいなヤツって自分で言うな。
「病院からだよ。病院。
悪いが、飯いらねぇ。
今からオンコールに出てくる。
そのまま日勤で、当直に入るから今日は帰れねぇ。
今日だけじゃねぇ。暫く、帰れねぇぞ」
その途端に、不貞腐れた表情を見せた氷夢華。
だけどオレは、あの日の望んだように鷹宮邸に居候しながら、
寝泊まりしつつ、シフトを代行することを決めた。
今日から始まる鬼シフト。
だけど、多分、オレの判断は間違っちゃいない。
このままここで氷夢華と同棲し続けるのにも躊躇われるし、
アイツの居場所を奪うわけにも行かない。
アイツを傷つけずに処理を取れる方法はシフトを利用するしかなかった。
オレは手早くしたくを整える。
とりあえず着替えも何着か鞄に詰め込む。
これだけ持ち出せば少しは鷹宮邸で生活することも出来るか。