【B】きみのとなり
8.すれ違う時間2 -嵩継-
全くあのガキ、オレの気も知らねぇで何やってんだよ。
氷夢華が鷹宮に勤め始めて一ヵ月。
その間に鷹宮の空気がかなり危うくなってきた。
かといって、最近入ってきた奴や患者たちに関しては影響はない。
俺と氷夢華が再会した少し前、
共に外出していた勇人と千尋が道路で倒れていた少年を助けて鷹宮に連れて帰った。
その少年の名前は、柳宮大海【やなみや ひろみ】。
柳宮は勇人の薬物中毒によって亡くなった親友、柳宮翔【やなみや かける】の弟だ。
その柳宮少年は千尋にとっては初めて『僕を頼ってくれた存在』。
千尋は大海が入院して以来、研修と大海の病院を往復するようになり、その少年にかかりきりになった。
その少年も千尋に心を許しているのか、アイツを頼っているのが目に見えて明らかだった
そんな千尋と少年を毎日見ながら、何かを見失うように壊れていったのは元々、千尋絡みに問題ありの勇人。
オレが勇人と出逢った頃から、勇人の全ては『千尋』で存在形成されているのが明らかだった。
勇人は実の父親に捨てられ、実の母親からは病院の中庭に捨てられた存在。
実母が生活に困って捨てたのも実母のことを知っていて、
成人するまで勇人を養子にすることを決めた院長夫婦の話もきかされた。
当時の院長夫婦には、千尋が夫人のお腹にいたものの生まれてくるかどうかが怪しまれていて、
そんな背景もあって院長は勇人を家族として迎え入れたのだと。
幼い日にそれを聞かされた勇人は、自分が鷹宮家の家族として存在する意味を探し始め、
それはやがて『千尋』と言う院長夫妻の実子の存在を守り助ける為と言う形でアイツ自身の穴を埋めた。
この夏に現れたアイツの実の父親の問題。
その父親の問題に踏ん切りすらつけられていないなかの、今回の千尋との事件。
度重なるストレスで埋めたはずの穴が今崩れ始めて酒も煙草もしなかったヤツが今では屋上で隠れて喫煙しながらアルコールを煽る。
同僚の氷室の情報に寄ると眠剤を頻繁に処方して持ち帰っているということ。
人の心には敏感に反応して平気で踏み込んで早期解決を試みようと、
一刀を振りかざしてくるアイツも自分のこととなると一切寄せ付けない。
オレ自身も何度か接触を試みたものの、
軽くはぐらかされてしまって逃げられてしまった。
そうこうしている間に、擦れ違い続けていただけのアイツらの間に少年の病室で何かが起きた。