【B】きみのとなり






ERシフトではないが病院から離れることが出来ない日々が続く。





医局のソファーで足を投げ出し、燻っていたオレは頭を指先でかきながらに
のっそりと起きあがると外の風に当たりたくて屋上へ続く階段を登って行く。



長い階段を延々とのぼりつづけて辿り着いた分厚い扉を開いて、
冬の冷たい夜風を感じる。




屋上を暫らく歩いてる屋上庭園を通り抜けて、その奥に足を進める。



その場所で、フェンス持たれながらエターナルペンダントを握りしめた。




そう……この場所はかつて海斗が飛び降りた場所。



今はオレの首にぶら下がって常に共に行動しているアイツが自らの命を断とうとした場所。

そしてこの場所が、オレが最後に勇人を捕まえた場所。








なぁ、勇人……お前今何処にいるんだ?







誰も居ない暗闇に向かって声に出して問いかける。



脳内で最後の日の記憶を思い返す。





いつもは白衣の下に、キチンと着こなしているシャツとネクタイを緩めたアイツが
フェンスに持たれながら、喫煙禁止の鷹宮で煙草をふかしていた。


オレがアイツをじっと見るとアイツは困ったような顔を浮かべながらも煙草を吸う手をとめることない。


「……嵩継さん……」


オレの名を呼びながら、アイツはセッタをオレの方にも差し出す。

共犯者にするつもりか勇人。



そんなことを内心愚痴りながらアイツの差し出した箱から一本抜き出すとアイツはすぐに火をつけた。
紫煙が暗闇に溶け込んでいく。



「おいっ、勇人?
 こんなことしても解決しないだろ」

「ですねー」



アイツは小さく呟くとまた煙草をふかし始める。
暫らくオレたちは無言のままフェンスに持たれ煙草をふかした。



「嵩継さんも大変そうですね」


突然、勇人がオレに視線を合わせないままに呟く。

ったく、こんなにてめぇのことでいっぱいいっぱいなのに、
コイツはオレの抱えてるもんに感づいてやがる。


「……まぁな……」


オレも視線を合わせず答える。

それっきり勇人は何も話さなくなって、
吸っていた煙草をもみ消すと屋上を後にした。



それがオレとアイツが話した最後の時間。


その数日後、勇人は姿を消して、
オレは帰らない選択から帰れない理由へと事情が変わった。



もうすぐ海斗が旅立った季節が近づく。



オレ自身も……あんまり強くねぇんだぞこの時期は。
どいつもこいつも厄介事ばかり増やしやがって。


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