【B】きみのとなり


春のクリアランスセールで賑わうデパートでの買い物も、
今年はいっても疲れるだけで何も思考が働かなくて
友達の誘いも断った。


こんな生活しか出来ないのも、それもこれも嵩兄の責任なのに、
嵩兄を捨てることなんて出来なくて、嵩兄に再び見捨てられるのを怖がってる。



知ってんのかよ、嵩兄。




相棒のエンジンを掛けて何時ものように病院へと滑り込みで飛び込むと、
医局へと早々に顔を出して先生たちのと打ち合わせ。


今日の検査予定を早々に受け取ると医局を退室しようとする。



嵩兄と何でも気軽に話せてる状況ならまだしも、
今のこんな状態で……会いたくない。



打ち合わせも早々に医局から退散しようとするアタシに誰かが声をかける。




「何してんだ?」


突然の言いように思わず勢い良く振り返って相手を睨みつける。
途端に響くように走る鳩尾の痛み。


必死に顔に出さないように耐えて黙って一礼だけすると慌ててトイレへと駆けこんで、
個室の中で痛む鳩尾にそっと手を当てる。

痛みの波が少し軽くなったところで何事もなかったかのようにアタシの居場所へと戻った。


ちょっとマジで、やばげ?
ロシアンルーレットに負けるのも……嫌なんだけど……。



痛みと格闘しつつ何とかやり過ごしながら仕事をこなし続けるアタシ。


途中、同僚の技師が心配そうに声をかけてくるけど、
同情されたり心配されるのにはウンザリなアタシは丁重に辞退して仕事に集中する。


午前中の仕事をどうにかこうにかクリアしてせっかくの休憩時間。



思う存分、休めると緩んだ開放感も束の間、
ERからの急ぎの検査の要請にスタッフサロンから慌てて飛び出す。



その途中、嵩兄の声を聞いた気がしたけどアタシ的には答える気力もなくて、
今は仕事をクリアして今日を一日無事に少しでも早く終わらせたい一心で。


こんなにも一日が長くてウットオシイなんて思いもしなかった。



貴重な貴重な昼休みも急ぎの仕事で奪われ、そのまま午後の検査に突入。




マジっ、この状況早く終わってよ。


今日は残業なんて頼まれてもしないんだからっ。


定時で帰るんだから。
呪文のように何度も心の中で繰り返して望む仕事。


流石にこんな状態になったのは初めてで一分・一秒がかなり長くて、
検査の合間合間に何度も時計を見てはがっかりするのを繰り返す。



それでも、どうにかこうにか今日最後の仕事に取り掛かる。


担当医、早城飛翔って。


確か、嵩兄のマンションのオーナの叔父だったよなー。

無口で無愛想。


アタシ的にはあんまり相手にしたくないタイプなんだけど、
仕事が出来ない奴は容赦なく切り捨てるっとかって看護師たちのなかで恐れられてるとか言ってたよ-な。


検査に同席していた早城先生の指示に従いながら、
とりあえず機械的に今は仕事に集中する。



後、一つ。
これが終わったら絶対に帰るっ。


もう一分・一秒だって、この場所にはいたくない。



「お疲れ様でした」


検査を受ける為にセデーション【※薬を使って意識を落とすこと】をかけられた患者を看護師がゆっくりと運び出す。


その途端、突然視界が暗くなる。


物凄い力で重力がアタシを引き寄せているような感覚が突然襲って、
その場でアタシの体は傾いた。



……嵩兄……。


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