【B】きみのとなり
*
気がついたとき、アタシは見慣れた天井を見つける。
……自宅だ……。
朝からの痛みは今は消えていて自宅にも関わらず腕には点滴の針が突き刺さってる。
何となく倒れたらしいことを悟る。
「嵩兄?」
もしかして嵩兄が連れて帰ってくれたのかも知れない。
期待を込めて名前を呟く。
「気がつきましたか?」
嵩兄とは違う声が部屋の中から聞こえてくる。
「アンタは?」
「安田先生の後輩、氷室由貴です。
覚えてませんか?」
その人の顔に見覚えはあった。
「知ってる……その氷室先生が何で此処に?」
「病院より御自宅の方が落ち着くと思ったので、
飛翔と簡単に処置だけ済ませてお連れしました」
お連れしましたって。
慌てて自分の着替えも済ませられてる事実に思わず困惑する。
そんなアタシを見て氷室先生はくすくすと笑う。
「何、気にしてる?
別に珍しくもない」
「飛翔、そんな言い方ダメです。
もっと柔らかい言い方をですね……」
飛翔って、もしかしなくても早城飛翔。
……マズイ……。
アタシ、アイツの前で倒れちゃったの?
思わず停止する思考回路。
「あっ、橘高さん大丈夫ですよ。
着替えの方は妃彩さんに手伝って貰いました」
妃彩って誰だよ……そう思ったのが顔に出ちゃったのか、
慌てて氷室先生は妃彩さんの説明をする。
何でも氷室先生が親友と住んでる家に同棲している女性で、
氷室先生のフィアンセと言う存在らしい。
妃彩と呼ばれた女性は柔らかに微笑んでアタシをゆっくりとみる。
「嵩兄は?」
「安田先生は今日はERです。
私と飛翔はオンコールで病院を離れられるので代わりに参りました。
安田先生のマンションは飛翔の家が経営しているマンションですし、
鍵も神威君に事情を話せば開けてもらえますから」
嵩兄ERなんだ。
普通……アタシが大切だったら、
当番代わってもらってでも傍にいるよね。
それでも嵩兄は帰ってこなかった。
オンコールの奴と交代してでも帰ってこれるはずなのに。
それが呼び出されるギリギリまででもさ。
それすら嵩兄はしなかったんだ。
何か、そう思うと今度は胸が苦しくて痛くなった。
かきむしりたいほど、抉り出して捨ててしまいたいほどに……。
「最低だな」
そんなアタシに突然、低く吐き捨てるような声が耳に届く。
「飛翔っ!!」
「自宅に戻る。
とりあえず暫らく休んでろ。
今のまま仕事されて、また倒れられても迷惑だ」
その人の声が、必要以上に耳に付く。