【B】きみのとなり



えっ?この声……。



慌てて輪の中心が見える場所に移動して中へと入っていく。



ブルーのシルエイティ?
って、何やってんだ?



『今、救急車は全部出払っていていないそうです』


ついてネェやつ。



『おいっ、この近くの病院で一番近いのは?』

『此処から麓の町まで降りて、 そこから駅の方に走っていくとF市民病院があります』

『誰かオレの車、走らせられる奴いるか?
病院まで患者を運ぶ。

 一刻の猶予もない』


聴きなれた声が周囲に協力を求める。
けれどお互い顔を見合わせては手を『出来ない』と断わりつづける。


アタシは覚悟を決めて携帯電話を握り締めると弥英の携帯に電話する。
聴きなれた着信が近くでなる。



「氷夢華、アンタ来てたんじゃん」

「弥英、アタシの相棒頼むわ。

ちょっとシルエイティの奴、知ってんだ。
 手伝ってくるよ」



相棒の鍵を弥英に預けるとシルエイティの傍に近付く。


ダチの各務【かがみ】が勤務してるから携帯に入れていた、
F市民の電話番号を呼び出してアイツの前に差し出す。



「アタシが、運転してやるよ」



アイツは驚いたようにアタシを見て「有難な」っと言葉に出すと、
患者である中年のおじさんを後部座席に乗り込ませて自分も乗り込む。


アタシも運転席に滑り込むように乗り込むと、
アイツ用に合わされた運転席を自分用に即座に調節してエンジンをかける。


「弥英、華奈子、行ってくるよ。
相棒暫らく預かっといて、また時間できたら取りに行くから。

 後、麓にサツ待機させといてよ。
 急患運んでんだからさ捕まりたくないし」

「OK!!。氷夢華、いっといでっ。
 早く片付きそうならまた顔出しなよ」

指先だけで弥英たちに合図すると、後部座席にも手で合図してすぐにアクセルを踏み込む。
こんな再会するなんて思ってなかったよ。





いい男になってんじゃん……兄貴……。



麓まで一気に下りきってパトカーと合流すると病院まで一気に乗りつける。
兄貴が病院には連絡つけてたけど迎えが看護師だけ?




「各務、ドクターは?」

「それが氷夢華、今この急患の処置出来る先生の手が離せんの。
 この前にも二台急患あって人数いんのよ。

 どうしたらええ?
 うちらアシストにはつけるけど」

「うだうだ言ってねぇで場所貸せ場所。

 処置はオレがやる。
 猶予はないっ。
 処置室運べ。血液、コロナリ準備」


兄貴は移送用担架【ストレッチャー】に患者を乗せると自らも隣について押していく。


「ですが当院は部外者は……」



共に隣に付き従いながら断ろうとする各務の連れの看護師に兄貴はキレた。



あぁ……やっちゃった。


兄貴、こんな短気なところも昔から変わってないじゃん。
なんてちょっと懐かしさも感じながら。



そんな兄貴の短気さも、優しさから来るものだってアタシはちゃんと知ってる。


「心筋梗塞の疑いが強い。
 助かる患者、見殺しにする気か?

 オレは鷹宮総合病院に勤めている医者だ。
 身元が確かめたかったら電話してくれ」



兄貴が自分の身分を名乗った途端に事務長っぽい男が乗り出してきて会話に割り込む。


「鷹宮総合病院……あの神前大系列の病院のドクターですか?」

「あぁ、番号は……」

「あっ、申し訳ありません。
 当病院も神前の庇護を受ける病院です。

 神前系列の鷹宮と言えば、その噂は存じております。

 当病院には現在、処置するドクターがいらっしゃっても技師がいません。

なにぶん今は人手不足で当直のドクターも先ほど緊急手術に入られまして、
 技師の方も到着するまでには後30分ほど時間が……」
 


事務長は申し訳なさそうに兄貴に紡ぐと視線を逸らす。


その視線が物語る……先は……。
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