【B】きみのとなり
13.きみのとなり -氷夢華-
運命の一週間後。
運命って言うか氷室先生から聞いたその時に、
確信出来た決行日。
その日を前に計画通りに動きはじめた。
倒れて二日間は動けなくて大人しく自宅に居た。
そして三日目、荷物を引き払う行動を起こす。
引き払うっていっても引っ越し先が決まってるわけでもなく、
すでに実家にもアタシの居場所なんてない。
少ない家具を売り払い本もCDもパソコンも手放して、
鞄の中に洋服だけ詰め込んで嵩兄のマンションをゆっくりと後にする。
玄関の扉を閉じた途端、全てが終わったような気がした。
ううん。
終わりようもないかも知れない。
何も始まってなかったんだから。
最後の鍵をかけて、約三ヶ月少しお世話になったマンションを離れる。
手荷物一つ。
洋服と化粧品が入った旅行鞄だけ。
後は通勤バッグの一式。
何処行こうかな。
とりあえずタクシーに乗って鷹宮の駐車場へと相棒を取りに向かう。
その後は行くところなんかなくてF峠に向かう。
体が回復してもそれは暇を持て余すだけで、
アタシにとっては望むことでも何でもない。
F峠で夜通し攻め倒して車の中で寝て一週間が終わるまで遊び倒してた。
嵩兄に受け入れて貰えないアタシなんて存在してても仕方ないんだから。
それくらいずっと思い続けてるのに、
兄貴、何で気がつかないんだよ。
相変わらず痛みは続いてるけど別に痛いからって焦るわけでもなく何を思うわけでもない。
感覚が麻痺してる心。
その日を翌日に控えた前夜、流石にそのまんまで退職願を出しに行くわけにも行かなくて、
ダチの家で一泊させて貰ってシャワーを借りた。
事情なんて知らないダチに勧められてアルコールに手を伸ばす。
何やってるんだろうアタシ。
もう自分でもわかんないよ、アタシ自身が。
思考能力もまともに働かない自分自身。
こんなの初めて。
ううん……前にもあった。
そう嵩兄が突然姿を消した時期に……、
あの頃のアタシと今のアタシどっちが希望あったのかな?
鷹宮総合病院、最後の日。
アタシはダチの家で身支度を整えて鞄の中に一通の退職願を携えて、
一週間ぶりの院内に足を踏み入れた。
院内に入ってすぐに広がるエントランス。
床に敷き詰められた真っ白い絨毯。
その向こう側にある病院内の小さな教会。
飴色の扉が開け放たれた奥から流れてくるのは、
パイプオルガンの音色と誰かの歌声。