【B】きみのとなり
とりあえず美容室。
一昨日、綺麗に修理されて帰ってきたばかりの愛車を飛ばして、
行きつけの美容室に顔出してカラーにカットにパーマ。
しめて半日コース。
その後はエステに行ってフェイシャルコースにボディーコース。
マッサージして貰って身も心もリフレッシュしたところで、
化粧品と新しい洋服を買い足して爪のケアをして貰った。
うーん、充実しすぎの1日。
やっぱ女子力磨かなきゃ女が廃るでしょ。
途中、書店でファッション誌を読み漁り、
取り残されていた時間の情報収集にあけくれる。
そしてあの日から、自然と視線が追いかけるのは兄貴の服。
メンズファッション。
思い浮かべるのは半袖のシャツ1枚にトランクスで出てくる風呂上がりの兄貴。
ビールをかっくらいながらシャツに適当なスウェットを合わせてTVを見てる兄貴。
クタクタのシャツにGパンだけ履き替えて患者さんの為に、
すぐに飛び出していく兄貴。
…………ノーコメント。
やっぱ、ありゃマズイよねー。
うちの病院、ボンボンの集まりなのかドクター陣、
服装だけは皆、決まってんのに兄貴だけはTシャツにGパン。
思わず溜息。
アタシが隣にいるって決めたんだから、
あの早城には負けて欲しくないわ。
気合を込めてメンズ館に乗り込んで、
1階から気になる洋服を片っ端からお買い上げ。
もっち、支払いは魔法カード。
貯金は切り崩すことになるけど、
アタシだって今まで必死に働いてきたんだ。
それにまた目標の為に働いたらいい。
今のアタシには、ちゃんとその道が見えるから。
それにアタシが欲しいもの出てきたら、
親切な兄貴が呆れ顔で買ってくれるだろうからさ。
だって兄貴の服買ったから貯金崩したんだし。
気のすむままに買い物を終えて、
愛車に荷物を詰め込むと途中スーパーによって兄貴の大好物をご購入。
ははっ。
こう言う些細な時間も楽しくてなんか幸せになれる。
さっ、早く帰ろう。
帰って兄貴喜ばせてやりたいしさ。
車を駐車場に滑り込ませて地下駐車場から
両手いっぱいに抱えた荷物を持ってエレベーターで昇っていく。
鍵を指して指紋照合。
[ピピっ]認識終了の音が小さく響いてロックが解除される。
「ただいまー」
まだ誰もいないであろう家に向かって声をかけながら中に入っていく。
「おぉ、氷夢華どっか行ってたのか。
って、てめぇーその荷物なんだよ」
帰宅早々、兄貴の絶叫がマンションに響いていく。
確かにアタシの両手には、それぞれのお店で買った
大量の紙袋がぶら下げられてるけど……。
「別に。
アタシに同じ服着て仕事行けって言うの?」
「何時オレが、んなこと言った?」
ちょっぴり弱腰の兄貴にアタシは紙袋を突きつける。