【B】きみのとなり
「はい」
驚いたような表情を見せた兄貴は戸惑うながら無言で、
その袋を奪い去る。
「あけなよ。
助けてくれたお礼」
そう言うと荷物を早々に自分の部屋に投げ入れてキッチンへと立つ。
てっとり早く肉好きの兄貴にはこれが一番だと思ったからステーキ買い込んできた。
兄貴に三枚、アタシに一枚。
野菜でサラダも作らなきゃ。
ドレッシングも手作りで、今日はオリーブオイルベース。
後は、胃に優しくするためにアタシの奴は大根おろしも使ってみよう。
だったら、兄貴も文句言わないよね。
キッチンでフライパンと包丁を操って一気に晩御飯完成。
同時進行で、風呂のお湯もいれておいたからアタシ、結構優秀な奥さんじゃん。
まだ奥さんになれてないし、恋人って言うのも怪しいけど、
兄貴といる時間は楽しいし兄貴と一緒に居たい。
アタシは兄貴にずっと昔から恋してるけど
兄貴はどうなんだろう……って恋人らしいことが殆どないと不安になるよ。
一緒に暮らしてんのに兄貴が狼に変身する気配は全くないから、
アタシに女子力がないんじゃないかと心配になったほど。
だけど……家事力も結構あるんだから、女子力戻したらいい女なんだからアタシ。
「兄貴、ご飯出来たよー。
持ってくの、手伝ってよー」
キッチンのカウンターからリビングの兄貴を呼ぶ。
目と鼻の先のダイニングに今日の晩御飯を並べる。
「おぉ、氷夢華今日は随分豪勢じゃねぇか」
「当たり前じゃん。
今日はアタシの快気祝い。
だってもう仕事復帰していいって兄貴いったじゃん。
来月の兄貴の誕生日は、もっと期待してて」
兄貴はしりつぼみに声が小さくなるアタシに向かって、
昔からやり慣れたように髪に手をやってクシャクシャって。
嫌いじゃない。
嫌いじゃないんだ。
だけど何時までも子供扱いされてるみたいでなんか許せなくて。
「兄貴っ、せっかくセットしてきたのに髪、乱れるじゃん」
「あぁ、わりぃ……」
そんなこと言いたかったわけじゃないのに。
「ねぇ、今日からせアルコールも解禁していいでしょ?
快気祝いで飲ませないなんて言わないよね」
っと冷蔵庫から、ビールグラスと缶ビールを持ってくる。
「コップ半分くらいな」
そう言いながら兄貴は、諦めたように缶ビールを手にして
アタシのコップに注いでいく。
「かんぱーい」
そう言って口に含むアルコールも、
なんかまだ美味しくない。