【B】きみのとなり


「隠れてコソコソすんのはオレには性にあわねぇからな。

 明日、実家に行くからって連絡して貰っていいか?
 お前と一緒に住んでんだ。

 正々堂々といたいからな。
 やましいことなんてしてねぇからな」




……兄貴……。


真っ直ぐな瞳で曲がったことが大嫌いで、
それがアタシが知ってる、ずっと追いかけてきた……兄貴。





……忘れてた……。



兄貴が唯、熱いだけじゃなくて、そう言うヤツだったって。
愛しさを確かめて自由な両手を兄貴の手に絡める。




「なぁ、氷夢華……親父さんに、お前くれって言ったら、
 オレ、どやっされっかな?」


兄貴が呟くように言う。



「さぁね。どうだろう。
 兄貴……アタシのこといっぱい泣かすから」



その一言が今まで流したアタシの涙を全て幸せのジュエルに変えてくれる。
アタシの心の中に輝き続ける最愛の兄貴が送ってくれた宝石。





大丈夫。
例え、兄貴がオトンに何か言われてもアタシは兄貴の味方。

アタシは兄貴といたい。


その時は親の前で、堂々と親公認の家出してみせるから。
 

「おいっ。
 泣くなって……お前……」

「泣いてないってば。

 これは鼻水だよ……汗だもん……」




幸せの涙は止まらなくて心のジュエルが一つ、
また一つと増えていく。




その後、幸せの余韻に浸ったままアタシは、
兄貴の目の前で実家に電話をかける。




「もしもし」


電話に出たのはオカン。


「元気してるの?
 まったく半年も連絡寄越さないなんて、ちゃんと食べてるの?」


心配そうに口早にまくしたてる母親。

胃潰瘍で入院したなんて絶対に言えないよ。



「元気してるよ。そっちは?」

「元気してるわよ。

 ちょっと久々に電話してきたんだからお父さんとも話しなさい。 
 お父さんも心配してたのよ」


いやっ、オカン待って……まだ心の準備が。


心臓に悪いって……。



視線の先の兄貴は祈るようにじっと見守り続ける。



「氷夢華、なんかようか?」


電話越しに緊張感漂う中、聞こえてくるオトンの声。


えっ?
心配してるってさっきオカン言わなかった?




なんかようか……って。
いつもとオトン変わんないじゃん。



「あのさ、話があるんだけど」

「言ってみなさい」



暫くの沈黙。



「明日、休みだよね」


小さな囁き声で、兄貴に確認をする。



「あぁ」


よしっ。
頑張れ、アタシ。

兄貴の返事を待って、再度気合をいれると
一気に用件を告げた。



「明日、家に居て。逢ってほしい人連れてくから」




いっ、言えた……。



ドキドキしてる鼓動が一際、音が大きくなって気がする。




流れる沈黙。
沈黙が重いよ。



「……わかった……」



オトンは静かに同意した……。


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