【B】きみのとなり




良かったぁ。


逢ってほしい相手が兄貴だって知ったらどんな顔するのかな?



電話を繋げたまま、電話を肩と首で挟んでアタシは兄貴に向かって
両手で○を作る。


兄貴はそのサインを受けて無言のガッツポーズ。



「氷夢華、明日10時で構わないか。
 お父さん、昼から予定が入ってる」


「うん、わかった。
 明日10時に家に行くから」



そう言ってオトンと電話を切る。






- 明くる日 -



まだ夜も明けきらぬ頃に目が覚めた。



目が覚めたって言うよりは眠れない。



遠足を前にした子供じゃないんだからっと、
自分で突っ込みながら部屋を抜け出して飲み物をとりに
ダイニングへと向かう。



コップに飲み物を注いで一気に飲み干して
自分の部屋に戻ろうとしたときふと……リビングに人の気配がする。



うっすら開いてるその隙間から息を殺して中を見つめる。



兄貴……。



リビングのソファー前のガラステーブルにはグラスが2つ。



片方のグラスは大切な相手に用意した減ることのないお酒。
その隣には飲み干した形跡のある空のグラス。



テーブルの上には兄貴が肌身離さず身に着けてる海兄のエターナルペンダント。



ソファーで眠ってる兄貴。




兄貴に毛布をかけたくて自室から持ってくると、
リビングのドアをゆっくりと開ける。



--キィ--。
ドアが開く音が響く。



もぞもぞっとソファーの上で兄貴が体を起こす。



「なんだ……氷夢華時間かぁー?」


寝ぼけ声で……。


「はいっ。兄貴、毛布。
 なんか……眠れなくて……」


兄貴に毛布を差し出して兄貴の眠るソファーの前にペタリ座り込む。



窓越し障害物なく光が降り注ぐ。



「朝陽……」


いつもは閉じられてるカーテンも昨日に限っては
兄貴が閉め忘れたらしく、そのおかげでちょっぴり小っちゃい頃からの
憧れがまた一つ叶う。



兄貴が隣で叶えてくれる。



ソファーから起きあがってきた兄貴が、
アタシの背後に座り込んでアタシを優しく包み込んでくれる。


それが嬉しくて……。


「……氷夢華……どうした?」




こうやって兄貴と二人で毛布にくるまって朝陽が見たかった。



小っちゃい時、オカンが見てたドラマでやってた……。
まぁ、それとはちょっぴりまだ遠いけど……また願いが叶った。



「……別に……」



また可愛げないことを口走る。
兄貴は……やっぱり、アタシの髪をクシャクシャってする。


このぬくもりの中でずっと居たいよ……。



「朝陽綺麗だねー」

「あぁ」



二人並んで迎える朝。


こんな朝が形を変えて幸せいっぱいで迎えられるなんて、
……兄貴……今、幸せだよ。



海兄……兄貴のことはアタシに任せてよ。




今日、兄貴がちゃんと私のオトンたちに挨拶してくれるって言ってくれたから。
海兄は笑って応援してくれる?



兄貴の温もりに身を委ねる。






何?アタシって結構ロマンチストだったんだ。



「さっ、兄貴、支度支度。

 昨日買ってきた洋服で兄貴ビシっと決めてよねー」


兄貴の腕の中から勢いよく立ち上がると照れ隠しに一言。




部屋に戻って洋服選び。
兄貴どんなアタシがいい?





フェミニン?
モダン?
ガーリ-?


ちょっとパンクに走っちゃう?




多分……今のアタシなら、
どんなファッションも着こなせる気がするよー。


兄貴が好きならさ。




とりあえず……クローゼットをひっくり返して
昨日、買ったばかりのマキシワンピにドルマンTシャツをあわせて。

髪型とメイクも気合入れていざ、兄貴のもとへ。

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