【B】きみのとなり


「ほらっ、氷夢華何してるの?

 ちゃんと嵩継君、リビングに連れて来なさい。
 今、珈琲いれるわねー」



テーブルには早々に並べられた珈琲カップ。


ケーキ。
焼き菓子。




「さっ、 どうぞ冷める前に」




オカンが必死に兄貴に進める。




だけど、そこで兄貴はソファーには座らずに、、
いきなり床に手をついて土下座状態を作る。




えっ?兄貴?




「今日はどうしても氷夢華さんのお父さんとお母さんに
 お願いがあって参りました。

 お嬢さんをオレにください……」



いやっ、兄貴……嬉しいけど、そこ土下座するとこ?
もうちょっと、和やかでもいいじゃん?兄貴。


沈黙を続けるオトンとオカン。




「お父さんお母さん、反対してもアタシ居場所知らせて
 公認家出してでも、兄貴と暮らすから。

 ってか、もう一緒に住んでるから……」




あっ、ヤバっ。口が滑った。




「黙っててすいません。
 実は今年の1月から氷夢華さんと一緒に生活してます。

 1月……オレが困ってたところを氷夢華さんが助けてくれて
 再会したんです。

 その時、オレ仕事が忙しくていっぱいいっぱいで。
 そんなオレを見かねて、家に来てくれてオレが働く病院で
 仕事しながら、家のこともしてくれてます」


「って違う。違うから。

 兄貴と再会して働いてた病院やめて、
 兄貴の家に勝手にアタシが押しかけたの。

 んで、そんなアタシを見かねて兄貴が新しい職場世話してくれて
 兄貴の家に置いてくれたの。

 兄貴は何も悪くないから」




アタシは兄貴を庇うのに必死で。


頼む。
頼むからオトンでも、オカンでもなんか言ってよ。



「嵩継くん、氷夢華を幸せに出来ると誓えるか?」



静かに重い口を開いたオトンに兄貴は「はい」っと力強く言い切った。




「氷夢華を宜しく頼む」



えぇ?
オトン許してくれたの?



「お父さん……」

「親公認の家出をされても困るしな。
 氷夢華、幸せになりなさい」



……オトン……。




「まぁまぁ。氷夢華が本当に嵩継君を連れてくるとはね。
 お母さんも反対はしないわよー。

 反対はしないけど嵩継君、本当に本当に本当にうちの我儘なじゃじゃ馬娘でいいの?

 もっと他にも出来た人沢山いるんじゃない?
 後悔しない?

 家にいた時も……文句ばっかりで何もしてくれないし。
 自分主義で人の都合何てお構いなしよ。

 ホント何処をどう育て方間違ったのかしら」



オカン……アンタさっきから聞いてたら好き勝手いいやがって。



「だから氷夢華と一緒になって後悔しない?

 後で、この子を傷つけるくらいなら傷跡がまだ浅いうちに
 そっとしといて欲しいの。

 この子は昔から嵩継君のお嫁さんになるって
 ずっと言い続けてたから」




……お母さん……




「後悔なんてしませんよ。

 オレ、コイツが…… あっ、いやっお嬢さんの事が好きですから。
 オレの方が結婚しても仕事人間だと思うからコイツが、
 あっ、お嬢さんが愛想つかさないかと心配してるくらいなんで。

 小父さんと小母さんが許可してくださって、本当に嬉しいです」



そういって、
兄貴はゆっくりと顔を上げた。

 


兄貴が傍にいる。
それが夢じゃないんだって。



心から実感できて……そう思えた。




「式はどうするの?」


突然のオカンからの質問にアタシはキョトンとしながら兄貴を見つめる。



「将来的には式を挙げたいと思っています。
 
 だけど今はまだ医師としてスキルを磨きたいので、
 仕事に集中したいんです」



やっぱ……慎重すぎる兄貴だから、すぐに結婚とは行かないよね。



「お父さん、お母さん。
 アタシも今は兄貴と同じ意見。

 ちゃんと孫は抱かせるって約束はするけど、
 今はアタシも兄貴も仕事をさせて。

 ほらっ、兄貴ももっともっとドクターとして勉強したいことあるだろうし、
 アタシもせっかく兄貴の為に資格取ったのに、すぐに結婚して身籠っちゃったら
 放射線技師の仕事出来ないもん。
 
 少しくらい兄貴の役にたちたいじゃん」



そう言うと兄貴も照れくさそうに笑い返してくれた。



「でも……」

まだ何か言いたそうなお母さんの言葉を制して、
お父さんは頷いてくれた。





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