【B】きみのとなり

2.再会相手 -嵩継-



処置終了後、オレは此処F市民病院の院長に呼ばれて出向いた先は院長室。


茶菓子を出されて聞かされるは田舎の市民病院ならではの人員不足を嘆かれ、
挙句の果て泣き落としで勧誘までされちまった。


まっ、『勧誘』の方は丁重に断ったけどなっ。


オレ的には鷹宮から離れるつもりもねぇし、鷹宮がオレにとっても家族で家だから。
とりあえず院長室を丁重に後にして鷹宮の方に連絡済ませてICU近くのソファーへとようやく腰をおろしたところだ。




煙草……吸いてぇなー。


煙草なんて学生時代しか吸ってない。
しかも未成年で終わった。


鷹宮に入ってからは鷹宮の方針でスタッフの喫煙を認めない為、
煙草を吸うことなんてなくなってた。



だけど……こんな時は妙に煙草が恋しくなる。


ソファーで脱力するオレに横から煙草をスーっと差し出す手。
あっ……コイツ、そういやオレが今日ひきずったんだよな。


差し出された煙草から一本抜き取ると、そいつはライターの火をつける。


手慣れてんなー。


そいつに貰った煙草をくわえて、ゆっくり煙を吐き出しながら久々の煙草を味わう。
って何でオレの好きな銘柄が出てくる?


偶然か?


「良かったら、こっちも飲みなよ」



そういって差し出された紙コップ。

中身は珈琲。
香りがインスタントじゃないことをオレに伝える。


一本丸々、貴重な煙草を堪能して珈琲を口元へ運ぶ。
一口飲んでオレはマジマジと隣にいる女の顔を覗き込む。



「ひむか……お前、橘高氷夢華……か?」



この珈琲の味で思い出した。


このブレンドはオレと親友・海斗が気に入ってるブレンドで、
近所の妹みたいな奴がいつもいれてた。


確か氷夢華んちの親父さんのコーヒー豆コレクションの一つだったか。


「おせぇーんだよ。

 嵩兄……アタシなんかとっくにわかってたんだから。
 あんなところで会うなんて思っても見なかったけど」


目の前でぶっきらぼうに喋る氷夢華の両目からは涙が出てくる。
< 6 / 149 >

この作品をシェア

pagetop