【B】きみのとなり

1.新生活 前編 -嵩継-



ジリジリと暑い太陽の強い日差しの中、
オレは鷹宮のスタッフ専用口から愛車へと歩いていく。


四月下旬。

行方不明だった勇人が発見されて、
裕先生と一緒に救急で担ぎ込まれてきた。


発見された勇人は長い階段を転げ落ちたのか、
脚は複雑骨折、薬物中毒、肝機能低下と言う芳しくない状態で発見された。


その日から勇人は鷹宮の特別室で眠り続け、
オレたちはシフトを分担しながら、勇人の部屋の付き添いを有志のみで続けていた。


その付き添いに、千尋の姿は入っていなかったものの、
今も神前と鷹宮を行ったり来たりしつつ、伊舎堂兄弟も手伝ってくれている。



氷夢華にも、ありのまま今の状況を最初から話しているからか、
アイツの今のところ大人しい。



アイツが退院して、もうすぐ四か月。

その間にオレが筋を通せたのはアイツの両親に挨拶に行っただけ。



アイツの親に突き付けられた『式』と言うものを意識せずにはいられない。

オレと氷夢華にも、そんな時がくるんだろうか?

氷夢華がオレの隣で、純白のウェディングドレスを着る日が……来るんだろうかぁ?



愛車の鍵をロックして、車内に入ると窓を開けて冷房を全開にする。

エンジンをかけてマンションへ向かって走らせながら、
オレの脳内は、ドレス姿の氷夢華でいっぱいだった。



チクショ、なんてもん想像してんだよ。
可愛いじゃねぇかよ。


けど海斗に何言われるかわかりゃしねぇな。



独り言ちながら、窓を自動ボタンを操作して閉める。

車内が冷えてきたところで、早々にマンションの地下駐車場へと愛車をとめる。
オレのクーペの隣には、アイツの真っ赤な愛車が停車している。




……珍しく、出掛けてねぇのか……。



そんなことを思いながら、オレはエレベーターに乗り込んで自室の前へと立った。



鍵を解除してドアを開けると掃除機の音が部屋中に響く。



「あっ、兄貴帰って来たんだ。
 お帰り。

 昼、冷蔵庫に素麺冷えてるよー。
 ちゃんと牛肉甘辛く焼いたやつもあるから、トッピングにして」



そう言いながら、氷夢華は部屋の隅々まで掃除機をかけ続けた。



ダイニングテーブルに氷夢華が用意した素麺を冷蔵庫から出して座ると、
箸を使ってすすっていく。


冷たい喉越しに気持ちよさを感じながら、
食べ終えた頃、コップ一杯の麦茶をオレの前にコトリと置いた。



「おっ、サンキュー。氷夢華」



差し出された大きなグラスに手を伸ばして、
一気に飲み干すと、食器を流しへと運んでゆっくりと伸びをした。
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