【B】きみのとなり
「兄貴、いいよ食器アタシが洗ってあげる。
それより疲れてそうじゃん?」
そう言うと、氷夢華はオレの背中を押してソファに座らせると、
タオルを肩にあてて、ゆっくりと肩を揉み始める。
「どう?兄貴?
氷夢華マッサージは?」
「んん?
おっおお、気持ちいいぞー」
そんな会話を切り返しながら、氷夢華はオレの肩を揉んだり、叩いたりを緩急をつけて繰り返す。
とろーんと瞼が下がってきて寝落ちしそうになりながら、
オレは氷夢華のマッサージに体を預けていた。
ピトっと背後からオレにくっついた氷夢華が、次の瞬間『クサっ』っと絶叫を開ける。
その声に、眠りそうだったオレは一気に覚醒した。
「うわぁ、兄貴ないって。
汗臭い」
そう言いながら、氷夢華はオレの部屋につかつかと入ると、
クローゼットからオレの着替えらしきものを手にして近づいてくる。
「もうっ、ソファーが汗臭くなるじゃん。
せっかく掃除したのに」
「……すまん」
「もう、ほらっとっとと脱ぐ」
そう言うと、氷夢華はお構いなしに俺からTシャツを引っぺがしにかかる。
上半身裸にされちまったオレに氷夢華は近づいてきて、
そっとオレの首から下がる、海斗のエターナルペンダントを指先で辿った。
冷たいペンダントの感触と共に、
ペンダント越しのアイツの指先を意識せずにはいられない。
おいおいっ、元気になっちまうじゃねぇか。
オレは自分の息子に冷静になれと必死に言い聞かせながら、
逃げるように、氷夢華から離れる。
「もーう、せっかく海兄と話してたのに。
あぁ、残念。
ほらっ、お風呂の用意ちゃんとしてるから入ってきなよ。
これ着替えねー」
そういって氷夢華は着替えセットを俺に手渡すと再び、
流しの方へと歩いて行った。
水道の蛇口をひねって、鼻歌が聞こえてきたのを確認して
オレは浴室へと逃げ込んだ。
おいおいっ。
やっぱ、アイツとの時間拷問だろ。
あの天然小悪魔め。
シャワーを浴びて汗を流した後、
ボディーソープをたっぷり掌に出して、
体の隅々まで丁寧に洗う。
そして浴槽へとザブンと座り込むと、
お湯が溢れ出した。
手足を伸ばしながら、顔を何度か浴槽のお湯で洗う。
なんだかんだ言っても……
一緒に住むようになってからのアイツは、
オレにいろいろと気を配ってくれてるのが伝わってくる。
再会したばかりの、必死すぎるアイツも、
多分、沢山のメッセージをオレに発信し続けていたんだろう。
だがそれを忙しさにかまけて、俺が気が付けなかった。