【B】きみのとなり



その後も約束が土壇場でキャンセルになること、しばしば。


謝り倒すオレに『仕方ないじゃん。兄貴も仕事なんだから。ほらっ、アタシもついてくよ』って
そういって、一緒にデートを中断してオレを病院へと送り届けると、状況を確認して手伝う時は手伝って帰る。


オレに振り回されてばかりのアイツ。

そんなアイツが、この映画だけはどうしても一緒に見たかったらしく
何度も何度も、当日になるまでオレのシフトを確認しては声をかけ続けて当日を迎えた。


朝一で顔を見て、おはようの挨拶と共に映画の話を切り出されなければ、
この用事を忘れて、うっかり孫が熱を出して様子を見に帰りたい成元御大の仕事を、
肩代わりしそうになってしまったのは内緒だ。


その状況に居合わせた早城に『嵩継さん、今日は約束あるだろ』っと釘をさされる始末。


そして御大のシフトは、オンコール予定だった聖也さんがそのまま入ることになり、
オレは医局公認で、今日は緊急時の呼び出しもなしと配慮されこの時を迎えた。







映画は佳境に近づいていくが、時折、睡魔に負けて意識が飛んでいるため
舟をこいでは、ドリンクに手を伸ばす。

中にはオレ好みに味を調節された、アイスコーヒーが入っていて、
喉を潤いしては、スクリーンを再び見つめる。


スクリーンには、主人公の二人がようやく再会して抱き着いている映像が流れていて、
あちらこちらから、泣いてそうな気配が感じられた。


そのまま何年後かの結婚式のシーンへとエンディングが続いて、
スクリーンにはエンドロールが流れた。


場内に灯りがついたところで、客たちは次々と立って後にしていく。



氷夢華も目元をハンカチで押さえていたのか、
鞄にハンカチを片づけると殆ど手を付けていないポップコーンと鞄を持って立ち上がった。

すかさずポップコーンの袋を奪い取ると、オレたちは映画館を後にした。



ギラギラと照りつける太陽が眩しすぎる。



思わず手で日差しを遮る仕草をしながら涼しい場所を求める様に急ぎ足で、
隣のショッピングモールへと駆け出した。


建物の中に入ると、速度を緩める。
アイツはオレの隣に、ピタっと寄り添うように歩く。


「兄貴、映画、寝てたでしょ。
 疲れてるんのに、付き合ってくれて有難う」


そうやって、さりげなくオレを気遣うアイツ。
そんな瞬間が、とてつもなく愛しく感じる。

思わず抱きしめたくなる衝動を、人前だからと理性で必死に抑える。
< 67 / 149 >

この作品をシェア

pagetop