【B】きみのとなり
って、最低。
兄貴と一番最初にしたデートの記念日に、この仕打ち酷すぎる。
そう思ったら、兄貴のいろんな気に入らないところが次から次へと出てきて
イライラがおさまらなくなっちゃった。
しかも去り際のあの女。
兄貴がアタシの名前をその女の前で呼んだとたん、
その女がアタシに視線を向けて『あらっ、おつれさんがいたのね』って
アタシに向かって声にならない声を発する。
*
居たわよっ、悪い?
ほらっ、とっとと消えてよ。
アタシに兄貴返してよ。
大切な記念日なんだから。
*
心の中で罵りながら、唇をぎゅっと噛みしめて
相手に鋭く視線を送り続ける。
「じゃ、またね嵩継君」
じゃ、またね。じゃねーよ。
兄貴との次はないんだから。
兄貴の傍にはアタシが居るんだから。
っと、あの女が残した言葉にやっぱり心の中で反発しながら、
ムカムカがおさまらない心を必死になだめながら、
兄貴の手首をきゅっと掴んで、ツカツカと駐車場に向けて歩き出す。
途中まで行くと、掴んでいた手首を放した。
「ねぇ、兄貴。さっきの誰?
感じ悪いし、嵩継君って、兄貴の名前、馴れ馴れしく呼んでくるし」
っと、兄貴に苛立ちをぶつけるように言葉を発する。
空気最悪。
こんなことがしたかったわけじゃないのに。
その後、ショッピングモールを出たアタシは、兄貴が運転する車で見知らぬ小料理屋へと連れられて行く。
「いらっしゃいませ。
あらっ、嵩継君いらっしゃい。
まぁ、珍しい。今日はお連れさんと一緒ね」
って、アタシたちを座敷へと案内してくれた年配の女の人。
あれっ……、アタシ、どっかで見たことあった気がする。
「氷夢華、海斗のおふくろさん」
兄貴が耳打ちするように教えてくれる。
「まぁ、貴女が氷夢華ちゃんね。
嵩継君と良く来てくれたわね。
そう……ちゃんと再会してたのね」
意味深に、おばさんは呟いて嬉しそうに微笑んでくれた。
そのおばさんの顔立ちから懐かしい海兄の特徴が見えてくる。