【B】きみのとなり
「兄貴~嵩兄いるの?いないの?」
思い切って声を出して呼んでみるが何一つ返答はない。
一部屋八畳くらいの洋室が八部屋。
そして、それより少し広いリビングダイニングにキッチン。
リビングに足を踏み込むと正面からは遠くに海の見える景色を見下ろす形で一望できる。
一体……家賃幾らするとこなんだよ。
高層マンションってだけでも高そうなのにさ。
いやっ嵩兄の甲斐性じゃこんなところ無理だよ。
だったら、ここは何処だよ。
マジで。
綺麗に整頓されたシステムキッチンの流しの洗い桶の中には、
一組の珈琲カップが沈められている。
そしてシステムキッチンの後ろ、
使いやすい位置には少し大きめの冷蔵庫が置かれている。
アタシは好奇心にかられて冷蔵庫のノブに手をかける。
だってノド渇いちゃったし運が良かったら何か入ってるだろうし、
とりあえずお茶でも何でもあれば嬉しいんだけど。
それに……やっぱ冷蔵庫の中見たら、どんな奴が住んでるか想像できるしさ。
ノブを握って一呼吸。
思い切って引いて冷蔵庫の扉を開く。
中には大量のビールに野菜に肉が所狭しと放り込まれている。
冷蔵庫の中から並べられているビールを一本拝借すると、
プルタブをくいっと開けて乾ききったノドに流し込む。
勝手に貰っちゃって悪いね。
ノドを潤して冷蔵庫を閉めると改めて周囲を見渡す。
知らない場所だよ……なっ。
マジで此処、何処よ!!
それに……やばっ、昨日は日曜だったわけだから今日は……月曜。
仕事っ。
あっ、今……何時よっ!!
慌てて眠っていた寝室に駆け込むと携帯電話の画面を開く。
11:30分。
不在着信、六件。
げげっ、全部……勤務先じゃん。
……あちゃーっ、やっちゃったよ……。
慌てて携帯握り締めて病院に電話しようと思うんだけど、
指が発信ボタンを押せない。
やばいよっ、マジ、ヤバイって。
どうしよう……アタシ……。
携帯を握り締めたまま、再度服を調えて鞄を持って寝室を後にする。
リビングに飛び込むとソファーの上に鞄を置いて、この場所の手がかりを探す。
何度か辺りを見渡すとテーブルの下に落ちている一枚の紙切れを見つける。
思わす手を伸ばして、その紙切れを拾い上げる。
この字……汚い嵩兄の字じゃん。
*
氷夢華へ
昨日は助かった。
黙ってオレんちに連れ帰って悪かったな。
起こそうと思ったが、気持ちよさそうに眠ってたからそのままにしておいた。
オレは今から仕事だから出掛ける。
適当に冷蔵庫の中にあるもの使って食べていいぞ。
休みだったらゆっくりしていけ。
鍵とパスワードを置いていく。
鍵穴に鍵差し込んでパスワードは携帯に登録して鍵センサーに送信しろ。
それでロックされる。
連絡先:
鷹宮総合病院
電話番号:病院→××××-××××
携帯→090-××××-××××
嵩継
*