【B】きみのとなり

「おぉ、サンキュー」


ソファーにもたれて、コーヒーを一口飲みこむ。



「あぁ早城が昨日、嵩継さんの担当患者さんが吐血して、
 3時頃だったか処置してました。

 503号室の湯川さんです」


若杉の言葉を受けてカップをもったまま立ち上がると、
カルテを立ち上げて、湯川さんの情報を確認する。


若杉がいれる濃い目の珈琲が、意識をしっかりと覚醒させていく。




今日も新しい1日が始まる。




引継ぎを終わらせてケアセンターめぐり、外来、手術、病棟めぐりと立て続けに仕事をこなした
夕方には疲労感から交感神経が活発になりすぎてナチュラルハイ状態。



医局に戻って机の引き出しから氷夢華のシフトを確認する。


アイツは日勤。
久し振りにアイツと出掛けるか……。



「聖也さん今日、少しゆっくりしたいんで、
 余程のことがない限りオフでお願いします」

「了解。
 皆にも伝えておくよ。

 嵩継はオンコールでもないし、病棟急変があってもこちらで対処しておくから
 安心して休んでおいで」



オレの元指導医は快くオフを了承して送り出してくれた。




白衣を脱いで医局から出るとオレは氷夢華を捕まえるために、
アイツのロッカールームの方へ移動しようとした。


オレの前をエントランスに向かって通り去ったアイツを
エスコートするように迎え入れる見知らぬ男。



氷夢華は、そいつと一緒に何処かへと出掛けて行った。




アイツがオレから離れることはない。
なんとなく、オレの中でそんな驕りがあったのだと気づかされた。


ショックを隠すように、オレはケアセンターへと駆けこむ。


ケアセンターには時任さん今朝まで過ごしていた部屋に、
また新しいターミナルケアを必要とする患者さんが入居していた。




夕飯時をいいことに私服のままケアセンターで一時間ほど過ごした後、
マンションに戻る気にもならず、医局へと出戻った。



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