【B】きみのとなり




医局の中には、飛翔が帰り支度をしているみたいだった。




「おっ、お疲れ」

「嵩継さん、まだ居たんですか?
 城山先生に聞きましたよ。

 氷夢華さんとデートの為、明日までオフだって」



聖也さん……氷夢華とデートって確かにそうでしたが、
オフの理由に持ち出してないですって。


思わず突っ込みたくなるのを抑えて、
何かあったんですか?っと言いたげな表情を見せる飛翔に言葉を返した。



「あぁ、そうだったんだけどな。
 アイツもいろいろと忙しいみたいで、ふられちまったよ」



アイツは今頃、オレが知らない男と一緒に同じ時間を過ごしてる。


わかってる。
アイツが悪いんじゃねぇ。


アイツを掴み取ってなかったオレが悪いんだ。





ショッピングセンターで時任と再会して以来、
アイツの態度は急によそよそしくなった。


いきなり磨きをかけるようにお洒落なんかにも目覚めやがって、
アイツが通るたびに、オレ以外の男の視線が、アイツを追いかけているのにも気が付いてた。



気が付きながらも、今日までまた何も出来なかった。


自業自得だ。
全部、オレか招いたことなんだから。




何ども言い聞かせるようにオレは心の中で吐き出し続ける。





「ならっ、嵩継さん俺と出掛ませんか?
 今日は神威が出掛けてるんで、久々にマンションで車変えてF峠にでも行こうかと」




オレを気遣って声をかけた、飛翔にのっかるようにオレは了承した。
今日は一人で過ごすと、オレ自身を責めることしか出来なさそうだ。




二人して医局を出て同じマンションに戻ると、
それぞれが一度、自宅へと戻り車の鍵を入れ替えて再び地下駐車場で集合した。




オレの通勤用の相棒の隣には、氷夢華の愛車が止まっていた。




暫くその車を見つめた後、オレはシルエイティーのドアを久し振りに開けた。

オレが暫く運転してなかったにも拘わらずシルエイティーはちゃんとメンテされてたみたいで、
バッテリーも上がることなく軽快なエンジンをならす。


前なんか急にコイツで出掛けようと思ってもバッテリーがあがってて、
それを回復させることから必要だったから、こいつの面倒も氷夢華が適当に転がしてみてくれていたのだと感じられた。




飛翔も通勤用のブラパスベンツから、プライベート用のベンヴェとアイツが呼ぶ相棒に乗り換えてエンジンをかけると、
オレに窓越しに合図をして、サングラスをかけて車を発進させる。

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