【B】きみのとなり
オレと違って飛翔はスピード狂のようにも思えた。
あっと言う間に引き離されていく車間距離。
だがF峠の道程くらいならオレだって知っている。
オレも出来る限り速度を出しながら、
一時間半ほどかかってようやくF峠の頂上へと辿り着いた。
夜のF峠は走り屋たちで賑わう。
あちらこちらから、エンジンの音が響いて聞こえる。
氷夢華もここで良く走ってたんだよな。
アイツとここで再会して……、
アイツがこの場所で胃潰瘍でぶっ倒れて……。
この場所で下手したら、オレはアイツを失くしそうになってた。
神様はようやくオレから奪うことがなかった大切な存在をオレが……。
そんなことを考えながら、シルエイティーにもたれかかって夜風を感じていた。
ふいにオレの隣に、心地よいエンジン音を鳴り響かせながら飛翔の車が停車する。
「少し流してきました」
運転席から出てくるとアイツは、自販機で缶コーヒーを購入してオレの方へと放り投げた。
飛翔が投げた缶コーヒーはオレの手に触れることなく、地面へと叩き詰められる。
ぼっこりと一部凹んだ缶コーヒーを手に取った飛翔は『重症ですね』っと声を零して、
凹んでない方の缶コーヒーを今度はオレの手に握らせた。
プルタブを引っ張って開けると、飛翔が先にコーヒーを飲んでゆっくりと話し出した。
「勇が心配してましたよ。
けどアイツはまだリハビリ中」
あぁ……アイツも気にかけてたのかよ。
バーロー。
お前は自分のことだけ考えてやがれ。
そんな毒を吐きながら、今は特別室を退院して院長邸の自室でリハビリをしながら、
今出来る研修を続けだした勇人を思い出した。