【B】きみのとなり
「ねぇ、ごめんね。
ずっと名前で呼んであげられなくて。
アタシもちゃんと一人の男として嵩継のこと見るから……だから嵩継もアタシをちゃんと女として見て欲しいの。
アタシは肝要だからさ多少のことは拗ねながら耐えるけど、
あんまり放置したら兄貴のことポイってして、他の男のところに行くんだからねっ。
アタシを可愛いって言ってくれるの、嵩継だけじゃ……兄貴だけじゃないんだから……」
精一杯の強がりだってわかってる。
アタシが兄貴以外の男を見つけられるなんて思ってない。
だけど……アタシの強がりが、その言葉をスルスルと吐き出させる。
その夜、アタシは愛車をF峠に残して兄貴の運転するシルエイティーの助手席で峠を下った。
F峠を降りた町で夜食になりそうな時間にもかかわらず、
ファミレスで食事を終える。
っと言ってもメインで食べてるのは、兄貴でアタシはジュースを飲むくらい。
ペロッとハンバーグ定食を平らげた兄貴は、
会計を済ませて再び車を走らせた。
兄貴が車で辿り着いた場所は、予想外のホテル。
車を地下駐車場に停車してフロントで手続きをすると、
案内されたのはめちゃくちゃ豪華な部屋だった。
「兄貴……大丈夫?
ここ、めちゃくちゃ高そうだよ」
そう兄貴のお財布事情を心配してしまう。
「あぁ、オレが選んでたら勿体なくてこんなところ泊まってらんないな。
けど、ここはほれっ」
そういってホテルのマークを見せる兄貴。
そのホテルのマークは、アタシたちが住むマンションにも使われていて……。
「このホテルって徳力の系列ってこと?」
アタシがそう切り替えすと兄貴はポケットの中から伝家の宝刀とばかりに、
一枚のカードを見せた。
徳力の総本家関係者パス。
「飛翔がな、去り際にねじ込んでった。
しかもアイツの甥っ子発行の最強カードと来た。
んで使ってみたら、ここに案内されたと……」
そう言うと兄貴は、キングサイズのベッドへと飛び込んでアタシを抱き寄せた。
そこでアタシは兄貴に初めて抱かれた。
初めて女として兄貴に受け入れて貰えた、そんな気がした。