【完】さらば憧れのブルー
「もしもし」
『おはよう。今菜子の家の前にいるから、準備出来たら降りてきて』
「了解」
電話を切ると、菜子がハンカチに包まれたおにぎりを持って部屋に戻ってきた。
「はい、おにぎり。暑くてすぐ悪くなっちゃうから、絶対食べなきゃだめだからね」
「うん。分かった。今一紀から電話あってね、もう菜子の家の前にいるから、準備できたら降りてきてだって」
「もう行かなきゃならない時間だもんね。ちょっと待ってね」
菜子はそう言ってクローゼットの中から、シルエットが四角い大きなリュックを取り出した。
「もう準備して、持っていけばいいだけだから行けるよ」
菜子は小さい体に似合わず、軽々と大きなリュックを持ち上げると肩にひょいと背負った。
玄関を出るときに菜子のお母さんが見送ってくれた。
「わざわざ早起きして頂いたのに、朝ご飯食べられなくてごめんなさい」
「いいのよ謝らなくても。もしごめんなさいって思うのなら、おにぎり全部食べちゃってね」
菜子のお母さんは、菜子にそっくりな下がり眉毛のせいかとてもおっとりして可愛らしく見えた。
私のお母さんはどんなお母さんなのだろうと思いながら、ぺこりと頭を下げて菜子の家を出た。