【完】さらば憧れのブルー
その人達の楽しそうな声がやたらと耳障りだった。
周りの人たちから見たら私たちも普通に観光に来た仲の良い高校生で、まさかそのうちの一人の私が、記憶喪失だなんて思ってもみないのだろうなと、どこか冷めた気持ちで楽しそうな人たちをぼんやりと見つめていた。
みんなの当たり前の生活が妬ましく思えている自分が、すごく汚いものに感じた。
そんなときでもお腹は空くもので、グーっと遠慮することのない大きな音が鳴った。
菜子のお母さんからもらったおにぎりは三つ。
アルミホイルで包まれたおにぎりを一つだけ開けてぱくりと一口食べた。
優しい味がして、すさんでいた心が少しだけほどけていくようなそんな感じがした。
素直に『嬉しい』とか『美味しい』とか『悲しい』とか、そう思えていた日常が今は遠い昔のように感じる。
スポーツバックの中からインスタントカメラを取り出し、二人の寝顔を写真に収めた。
いつもの当たり前を繰り返すことで、今の私はなんとか保たれている気がする。
きっとこのカメラで二人を撮らなければこの二人の寝顔ですら私は妬ましく思ってしまうんだ……。