はじまりはミステイク
……なんだ、目頭押さえちゃって。圭吾くんだって泣いてたんじゃん。
「ほら、タオル貸すよ」
「いいって」
「ほーら、化粧よ移っちゃえっ」
「やっ、やめろってっ」
無理やり圭吾くんの顔を拭いた。
「へへっ、これでおあいこ」
本当はさ、圭吾くんにかける言葉が見つからなかったんだ。
「何がおあいこだよー」
「こっちの話っ」
だから、今は笑うしかできなかった。
だから、励まそうとしても……余計なことを言っちゃうんだよ。
選手達が整列を始め、周りの席も埋まり始めた頃、私は圭吾くんにポロっと本音をこぼした。
「……もう剣道はしないの?」
デリカシーのない言葉を口にしてしまった、と言ってから気づいた。
「しない。こうやって観戦出来るだけでいい。剣道は怖いけど、好きだからな」
ふっと笑う圭吾くん。
おかしいよ、そう思う自分がいた。