記憶の中で生きる君へ、この空に誓う


「梶先輩っ……それでもっ……前に、進む為にはっ……必要、な……ことっ…」


どんどん締め上げられ、ついに呼吸が出来なくなる。


「前だぁ?俺には、前も未来も、生きてる今さえ、空っぽなんだよ!!」


悲痛に叫んだ梶先輩は、今までのどの言葉より真実を語っていると思った。


梶先輩、梶先輩が望まないなら、すみません、勝手にその記憶に触れます。


きっとこれが、今の梶先輩に必要な事……。


胸ぐらを捕む手に意識を集中すると、次第に音が止み、世界がセピア色に変わる。


『いい、航平ちゃん。あなたは、将来医者になるのよ。その為には、誰よりも特別に、優秀にならなきゃいけないの』


『はい、おかあさん』


『いいな、航平。お前は次期"梶病院の跡取り、高校はもちろんここへ行け』


『はい、お父さん』


綺麗な一戸建てのリビング、両親を前に座る、中学生の梶先輩が見えた。


身なりの良い、気品のあるおかあさんに、威厳のあるお父さんを前にニコリとも笑わない梶先輩。





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