雨宿りの星たちへ
 


自分の力を悪行に使おうとは思ったことはありません。けれど、正しく生きることは、必ずしも幸せとは限らないのです。

たくさんのしがらみに縛られて、自分一人が苦しい思いをすることも今日まで何度もありました。

そのたびに、打ちのめされるのです。正しくあろうとするたびに、何度も何度も大きな壁に、ぶつかりました。

一体、どうして自分がこんな目に遭うのだろう。

どうして、自分が、自分だけがこんなに辛い思いをしなければいけないのだろう。

ちょうど、きみたちと同じ頃。そんな風に自分の日々を蔑み、自分の未来を諦めようと思ったものです。

けれど、そんな僕にも大切な人ができました。一緒に未来を歩みたいと思う人が、できたのです。

春のような彼女のお陰で、僕は今日まで、本当に幸せでした。とても、とても幸せな生涯を過ごすことができました。

そして今、僕は彼女と僕の間に産まれた愛しい命を救うため、自分の未来を手放すことに決めたのです。

僕は明日、娘の命を救って死ぬでしょう。

世界から消えることは、本当はとても怖いことです。けれど、僕は今、少しも怖くはありません。

僕が生まれ持った特異どころか、自分の全てを失っても、僕を忘れないでいてくれる人がいるからです。

僕が世界から消えてしまっても、そんな僕を愛し続けてくれる人がいるからです。

 
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