雨宿りの星たちへ
「少しだけ、寄り道して行かない?」
明日雨が降るなんて、誰もそんなことは想像できないくらいに頭上には雲ひとつない青空が広がっていた。
雨先輩の家を出て、病院に戻ろうと空を見上げていた私に、唐突にそんなことを言った先輩の綺麗な顔を、思わずキョトンとしたまま見つめてしまった。
「本当は、少しでも早く病院に戻って、ばあちゃんの傍にいてあげたいと思うけど……でも、どうしても、美雨に見せたい景色があるんだ」
「見せたい景色?」
「うん。小さい頃、こっちに遊びに来た時に、ばあちゃんに連れてってもらった場所なんだけど……」
そう言う雨先輩の言葉に、どうしてか、首を横に振る気にはなれなかった。
本当なら、すぐにでもトキさんのところに戻りたい。いつまた何があるかもわからないし、私がそう思うのだから雨先輩だって同じだろう。
だけど、誰よりもトキさんの身を案じている彼が、私に見せたいものがあると言っている。
それが、どんな景色なのか……見てみたいと思うのは、" 明日 " 死ぬかもしれない私の小さなワガママだった。
「わかりました。寄り道、しましょう」
ふわりと、風に靡いた髪。
雨先輩を見上げながらそういえば、先輩は優しく目を細めて微笑んだ。