雨宿りの星たちへ
 


「お母さん……」


『いってらっしゃい』『いってきます』そんな、当たり前のように交わしていた挨拶も、もしかしたら今のが最後になるかもしれない。

お母さんと顔を合せるのも、これで最後かもしれない。

だけど、そうなってほしくないから。そうはなりたくないから、お母さんには「さよなら」も「ありがとう」も伝えなかった。

いつも通り。いつも通り、今日もまた仕事から帰ってきたお母さんに、私は笑顔で「おかえりなさい」と言いたい。

ううん、絶対に「おかえりなさい」と言ってみせる。今ので最後になんて、絶対にさせないんだ。


「学校に……今日は休むこと、連絡しなきゃ」


このあとの自分のやるべきことを声に出し、携帯電話片手にリビングへと歩を進めた。

パジャマのままリビングのソファーの上で膝を抱えて蹲ると、昨日の帰り道に雨先輩と交わした言葉を頭の中に並べた。

 
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