遠くの光にふれるまで




「え? は、はい……」

 立っていたのは、長めの黒髪を後ろでひとつに束ねた、背の高い、つり目でいかつい顔をした、高圧的な印象の男性。
 彼がひのえさんと同じ黒い着物姿で、腰に刀を携えていたから、すぐに天使部隊のひとだと分かった。

 彼は品定めをするかのような目付きでわたしを見下ろす。

 なんという威圧感。わたしにしか見えていないというのだからますます恐ろしい。

「あんた、丙さんと待ち合わせしてるって人間?」

「え、あ、はい……そうです」

 声は低く、高圧的な印象に拍車がかかる。

「俺は丙さんの後輩の宿木ってもんだ」

「あ! やどりぎ!」

 やどりぎって、前にひのえさんが言い訳に使っていた……。このひとの名前だったのか。

 わたしは真相が分かって喜んだけれど、急に呼び捨てにされたせいか、やどりぎさんは少しムッとして、さらに見下ろしながらこう言った。

「丙さんからの伝言だ。急に仕事が入ったからいけなくなった、また連絡する」

「あ……はい、分かりました」

 ひのえさんは来れないらしい。まあ仕事なら仕方ない。副隊長だし、忙しいのだろう。


「は? それだけか?」

「え?」

 やどりぎさんは驚いた顔をして、わたしはそれを見て驚いた。

「ドタキャンされたってのに、それだけか?」

「え、だって、仕事なんですよね?」

「ああ。非番だったみたいだが、緊急にって」

「なら仕方ないですよ」

 きちんと意見を述べただけなのに、やどりぎさんに首を傾げられてしまった。
 なんだかすごく距離を置かれている気がする。初対面なのに。悪印象なのだろうか……。


「聞いていいか?」

「はい」

「丙さんに伝言を頼まれたとき、現世で世話になった人間に礼をしに行くはずだったと聞いた。それ以外のことは話してくれなかったが……。もしやあんた、丙さんと恋仲だったりするのか?」

 現世で世話になった人間。恋人、ではなくそう紹介したということは、隠さなければならない理由があるのだろう。

「ひのえさんの、言葉通りです」

 だったらわたしも、ひのえさんの迷惑にならないよう、合わせるのが得策だ。

「そうか……。ならいい」

 やどりぎさんは、納得したような、していないような、微妙な顔をした。




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