遠くの光にふれるまで




 ちょうどそのとき。藤宮さん? と名前を呼ばれ、振り返ると、野分さんが立っていた。
 野分さんは、勿論やどりぎさんのことが見えなくて、優しく微笑みながらこちらにやってくる。

「偶然ですね。今日学校は?」

「開校記念日でお休みなんです。午前中部活で、今帰りです」

 野分さんに霊感がなくて良かったと思った。やどりぎさんが見えていたら、きっとこんなに優しい顔はできないだろう。

「藤宮さんは、待ち合わせですか?」

「あ、いえ……」

「なら、飯でも……。あ、もう食べちゃいました?」

「まだです、けど」

 ちらりと、やどりぎさんを見る。
 彼は品定めをするような目を、今度は野分さんに向けていた。こわいっす、兄さん……。


「ごはん、行きましょうか」

「本当ですか? 良かった。僕の家の近くに、安くて美味しい定食屋があるんです」

 にこっと笑って促す野分さんの目を盗んで、やどりぎさんに会釈した。

「お仕事頑張ってとお伝えください。それから、今日のことは気にするなと」

 早口でそう伝え、慌てて野分さんの後を追う。

 少し歩いて振り返ると、やどりぎさんはまだ、品定めをするようにこちらを見ていた。






< 22 / 114 >

この作品をシェア

pagetop