遠くの光にふれるまで
ちょうどそのとき。藤宮さん? と名前を呼ばれ、振り返ると、野分さんが立っていた。
野分さんは、勿論やどりぎさんのことが見えなくて、優しく微笑みながらこちらにやってくる。
「偶然ですね。今日学校は?」
「開校記念日でお休みなんです。午前中部活で、今帰りです」
野分さんに霊感がなくて良かったと思った。やどりぎさんが見えていたら、きっとこんなに優しい顔はできないだろう。
「藤宮さんは、待ち合わせですか?」
「あ、いえ……」
「なら、飯でも……。あ、もう食べちゃいました?」
「まだです、けど」
ちらりと、やどりぎさんを見る。
彼は品定めをするような目を、今度は野分さんに向けていた。こわいっす、兄さん……。
「ごはん、行きましょうか」
「本当ですか? 良かった。僕の家の近くに、安くて美味しい定食屋があるんです」
にこっと笑って促す野分さんの目を盗んで、やどりぎさんに会釈した。
「お仕事頑張ってとお伝えください。それから、今日のことは気にするなと」
早口でそう伝え、慌てて野分さんの後を追う。
少し歩いて振り返ると、やどりぎさんはまだ、品定めをするようにこちらを見ていた。