遠くの光にふれるまで
メールは千鳥からだった。
『話がある、会いたい』
これが別の女からだったら「お、告白か?」なんてどきどきするんだろうが、差出人が千鳥なら、期待する気にもならない。
やつ――東屋千鳥とは学生時代の同期で、もう数十年の付き合いになる。
すぐに電話して居場所を聞くと、どうやら俺が所属する八番隊舎に来ているらしい。
待たせると後が怖いから、慌てて隊舎に戻る。
そこで提案されたのは、予想外の内容だった。
「実は先日、現世で人間の友人ができたんだ。燈吾や花、春一の友人らしい。普段は働いているが、体調を崩してまとまった休みをもらったと聞いて。それで花たちが元気付けるようパーティーをしようと言うんだ。雲雀、おまえも一緒に行こう。なあに、心配するな。私たちの姿も見えるし、理解もある。雲雀もすぐに仲良くなれるよ」
俺たちの姿が見えて、理解のある女?
まさかあの女じゃないだろうな……。いや、俺たちの姿が見える人間は意外といる。ただそれだけの情報で特定するのは尚早というもんだ。
そうして簡単に現世息を決めたが、真偽はすぐに分かった。
翌日、開発課に寄って、人間にも俺たちの姿が見えるようになる薬をもらった。これで数時間、俺たち天使も人間界で実体を持つことができる。
普通の薬なら数時間で効果が切れるけれど、今開発中の薬は数日効果が続くらしい。無償のため、研究員たちにそれを勧められたけれど断った。
そこで聞かされたのは「丙副隊長殿は開発中の薬と解毒剤も持っていきましたよ」という事実。
丙さん、研究中の薬を持って行くくらいあの女のことを考えていたのか……。
人間の服に着替えて篝火家に行くと、燈吾に花、春一や燈吾の妹など、馴染みの面子に混じって、庭でバーベキューの準備をする女がいた。
その女を見て、硬直した。女も俺を見て、硬直していた。
丙さんのお使いで出会った、あの女だった。
「雲雀、何を硬直している。こちらは若菜。私は若と呼ぶことにしたんだ。おまえも仲良くしてやってくれ」
「え、あ、おう……」
「この間は、どうも……」
挨拶すると、女は苦笑して頭を下げる。
「なんだ知り合いだったのか」と千鳥は驚いていたが、驚いたのはこっちだ。世間は狭い。