遠くの光にふれるまで
花と春一が真面目な顔でやって来たのは、燈吾が若菜を送って家を出た直後だった。
「あのね、ヒバリくん、千鳥ちゃん。お願いがあるの」
いつもほのぼのと笑う花からは想像できないくらいの真面目な顔に、千鳥と俺は少し緊張して、ふたりを見つめた。
「あのね、お節介かもしれないんだけど……。やっぱり若菜さんと丙さんには、仲直りしてほしいなって」
どうせそのことだろうな、と。分かってはいたけれど、はっきり言われるとなんだか気分が悪くて。ああ、と気のない返事をして顔を反らす。
構わず花はポケットから封筒を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
「丙さんに、手紙を書いたの。内容は、イベントのお誘い」
「イベントのお誘い?」千鳥が首を傾げて繰り返す。
「そう。僕らはもうすぐ夏休みだし、せっかくだから色々なことをしようって話していてね」花の代わりに春一がそう説明した。
「お祭りだとか海だとか花火だとかバーベキューだとか……。とにかく色々遊びたいなって」
「丙さんのことだから、若菜さんと仲直りするタイミングが見つからなくて、ますます意固地になっているんだろうから。そういうイベントがあったら、会いやすいと思って」
「勿論ヒバリくんと千鳥ちゃんにも来てほしい」
「だからこれを、丙さんに渡してほしいんだ」
小学校からの同級生らしい花と春一は、息ぴったりで交互に話し、言葉を止めると同時に頭を下げた。
千鳥と俺は顔を見合わせ黙り込む。
先に口を開いたのは、千鳥だった。
「勿論それは構わない。確かに丙副隊長に届けよう」
「ありがとう、千鳥ちゃん!」
「ただしその役目は雲雀、おまえだ」
突然話をふられ、驚いて顔を上げる。なんで俺が……!
「残念ながら私は丙副隊長とあまり接点がない。学生時代から仲の良い雲雀なら渡しやすいだろう」
正論だった。
「ヒバリくん、お願いね」
「藤宮さんを助けると思って。頼みます」
もう一度頭を下げられ、俺は渋々手紙を手に取った。