遠くの光にふれるまで
それからさらに一ヶ月が過ぎ、大学生である俺たちの夏休みが目前に迫った頃。
「実はこの間、丙さんにお手紙を書いたの」
夏休みの計画を立てていたときに、花がそんなことを言い出した。
どうやら先日、ヒバリや千鳥が来たときに、丙さん宛ての手紙を託したらしい。
内容はイベントへのお誘い。祭や海に行ったりバーベキューをしたり。この夏しようと話していたイベントに丙さんも誘って、若菜さんと会わせ、仲直りをさせようという魂胆らしかった。
まあ若菜さんからは会いに行けないし、丙さんがこっちに来てもらうしかないから、それが最善で最良なんだろう。
「意固地になってるのかもって、春一くんが言ってた」
「確かに丙さんって強いし格好いいし、俺らから見たらずっと大人だけど、そういうとこダメそうだもんな」
「うん。気まずいだろうしね」
花はいつも俺たちに見せるのほほんとした笑顔を消し、悲しげな顔で窓の外に目をやった。
その目に映るのは、外の景色ではないように思えた。
きっと見えるはずもない、天界を見上げているのだと思った。
「ヒバリくん、ちゃんと手紙渡してくれたかな……」
「大丈夫だろ。ちょっと忘れっぽいけど、情に厚いやつだから」
「だよね。きっとヒバリくんも、先輩の幸せを願ってるよね」
「ああ」
ヒバリが手紙を渡したかは分からない。手紙を受け取った丙さんが、祭やバーベキューに来てくれるのかも分からない。
でも今の俺たちにできるのは信じることと、しっかり計画をたててあのひとたちを誘うこと。それだけだった。
「来てくれるといいね。丙さん……」
「そうだな」
呟くような相槌を打って、俺も窓の外に目をやった。
当たり前だがその先に、あのひとたちが住む天界が見えるはずもなかった。