遠くの光にふれるまで
若菜の章
天界に来て、十八年目の初夏。
わたしは少し緊張しながら、見知らぬ道を歩いていた。
わたしが住んでいる地区よりも、少し和風の建物が目立つ。石畳の道や格子の窓、道行く人たちの着物姿を見ていると、なんだか別世界にタイムスリップしたような気分になった。
その中に、腰に刀を携えた黒い袴姿の女の子たちを見つけ、どきっとした。
今はもう懐かしい光景だ。
かつて、たった一ヶ月だけ一緒にいた男性がいた。
そのひとは彼女らと同じように腰に刀を携え、黒い袴姿だった。
一緒にいたのはたった一ヶ月だったけれど、十八年の月日が流れた今でも、目を閉じればその姿を鮮明に思い出すことができる。
わたしは彼を、心の底から好きだった。
優しくて格好良くて強引で、ちょっと嫉妬深くて……。人生で一番素敵なひとだった。
そんな話を学生時代の友だちにしたら「年月経ちすぎて美化されてるんじゃない?」と言われてしまった。
そんなことはない、気がする……かもしれない……。
本当に素敵なひとだったんだから。
この十八年、色々なことがあった。
目的地までまだ少し距離がある。振り返るには充分だ。