遠くの光にふれるまで
「で、体調は?」
二杯目のグラスを空けたところで、藤原さんが言った。
「うーん、正直、あまり良くはないです。多分本当に、来年を迎えるのは不可能かと」
「そうか。管理係から転送依頼書が届くのは、死亡前日の朝。まあ未練が基準値を超えるようなら送迎係に届くが。多少の未練があるようなら、俺たちも協力するから」
藤原さんの言葉を聞いて、梅田さんも「ですよ!」と拳を握る。
「未練なんて……」
ないと言ったら嘘になる。でも……。
「……丙」
「え?」
「丙に会いたいとは思わないのか?」
き組の皆さんとは少し前から顔見知りだったけれど、ひのえさんのことを話した覚えはない。
なのに藤原さんの口からは、確かにあのひとの名が出た。
何でもお見通し。藤原さんほどの階級の天使の前じゃあ、隠し事なんてできないのかもしれない。
「会いたくないと言ったら、嘘になります」
できることならもう一度あのひとに会って、愛していますと伝えたい。
「でも、会わないほうがいいとも思うんです」
「どうして」
「……ひのえさんは心配性だから、わたしがこんな状態だって知ったらどう思うか」
「病気のことも伝えてないんだっけか」
「はい、なにも。だから今、ひのえさんとは何も話さなくていい。いつかまた会えたら、直接色々話します」
それにわたしには、書き溜めた手紙がある。手紙というより、もはや日記。ひのえさんと会えない間、わたしがどんな風に生きていたか。それを書いた手紙だ。
その手紙がひのえさんの手に渡るという確証はない。もしかしたら遺品整理のとき、デスクと一緒に捨てられてしまうかも。辞書みたいに分厚い手紙の置き場に困って、物置行きにされてしまうかも。
ただもしあのひとに届くなら、わたしの気持ちが少しは伝わるはずだ。伝わらなかったぶんは、会って直接伝えたい。今度こそ、ちゃんと。
と、思っていた、のに……。
「直接会ってって……おまえどうやって会うつもりだ? 一般の魂と天使じゃあ、住む場所が違うんだぞ」
「あ……」