圭哉くんは俺様且つ暴君。
そんな私に聞こえてきたのは、ザワザワ…と湧き上がる周りの声と
「……え、」
何故か驚く翔太くんの声。
それから、
「…小春、こっち来い。」
ここに居るはずがない、だけど聞き間違えるはずのない…圭哉くんの声。
「…圭哉くん!?」
私の声に、静まるバスの中。
今、目の前には…やっぱり不機嫌オーラを纏った大魔王様でしかない圭哉くんがいる。
私の隣に座る翔太くんと、しばらく睨み合うように視線を交わらせた後、
「…俺の負け。降参…。」
ふっ、と柔らかく笑った翔太くんの言葉でその睨み合いは呆気なく幕を閉じた。
それと同時に、翔太くんが席を立って
「…来い。」
「わ、」
圭哉くんは、私の手を握りしめて、そのまま再びざわつくバスの中から私を連れ出した。
『きゃー!!!』とか、『映画の撮影みたーい!』なんて呑気な女子の声も
今の私にとっては、不安を煽るだけ。
なんで怒ってるの?
私、これからなにを言われるの?
「ちゃんと、HRまでには教室に戻れよー!!」
先生の声に振り向く余裕もなく、ただ圭哉くんに引きずられるように歩く。
先を歩く圭哉くんの顔は見えなくて、繋がれた手がやけに熱い。