クリア・スカイ

 あの時、女将は私を病院の屋上に呼び出して真実を告げた。そのときはすごくいい天気で、曇りばっかりだった島の気候がようやく落ち着いてきたときのことだった。

 屋上に干された白いシーツが風になびき、その風は桜の花びらを散らせていく。

 そんなカラフルな景色を一転して真っ黒にするような事実をつきつけられた瞬間は今でも忘れられない。


「でも私は、ほたるはいつか目が覚めるんじゃないかって思うんです。何の根拠もないし、希望かもしれないけど。その日が来るまで私は、ほたるが起きていたころの環境を崩したくないって思ったんです」


 そう決意した私は、女将に頼んで旅館の手伝いをすることにした。そして、高校で一人でいることが正しいと思うようになった。ほたるが意識を取り戻した時、彼女の知っている私のままでいたいと思ったから。


 こうして、高校では出来るだけ静かにすごし、旅館では努めて明るく振舞うという、アンバランスな私が出来上がった。


 
< 104 / 318 >

この作品をシェア

pagetop