クリア・スカイ

 柳さんは、私の話を相槌を打ちながら聞いてくれた。一通り話し終わった後は沈黙が続いている。沈黙がいやなわけではない。ただ、柳さんの次の一言を聞くのが怖い。

『そんなことではだめだ、もっと前向きに生きろ』って諭すのかな。それとも『今はそのままでいいんじゃないか』って言うのだろうか。

 手を掴まれたときとは全く違うドキドキが体中を駆け巡る。
 柳さんはゆっくりと息を吸って、ゆっくりと息を吐いた。ほどなくして彼の口から出た言葉は、私の想像を遥かに超えた一言だった。


「僕なら、ほたるさんの悩みが分かるかもしれません」

 そして、静かにこう付け加えた。


「なぜなら、僕は、物の記憶を辿ることが出来るから」


 
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