クリア・スカイ
調理場の近くまで行くと、事務室の明かりがまだついていることに気付いた。女将か優子さんがまだ仕事をしているのかもしれない。
ほたるはそう思ったのか、調理場を通り過ぎて、事務室へと近づく。
「――私、もう限界だわ。兄さんからも義姉さんにちゃんと話してよ」
「お前に言われなくても、何度も言っているよ。でもアイツ、全く耳を貸そうとしない」
部屋から聞こえたのは、優子さんと板長であるほたるの父親の声だった。優子さんの声はいつもより低く、吐き捨てるような口調だ。
「もっとちゃんと話してよ。夫婦でしょ。ほたるちゃんは、貴方たちの娘でしょ? もっとちゃんと見てあげてよ。ほたるちゃんが風邪を引くなんてめったにないのに、こんな時だってあの人は何もしようとしない」