クリア・スカイ

 調理場の近くまで行くと、事務室の明かりがまだついていることに気付いた。女将か優子さんがまだ仕事をしているのかもしれない。

 ほたるはそう思ったのか、調理場を通り過ぎて、事務室へと近づく。


「――私、もう限界だわ。兄さんからも義姉さんにちゃんと話してよ」

「お前に言われなくても、何度も言っているよ。でもアイツ、全く耳を貸そうとしない」

 部屋から聞こえたのは、優子さんと板長であるほたるの父親の声だった。優子さんの声はいつもより低く、吐き捨てるような口調だ。


「もっとちゃんと話してよ。夫婦でしょ。ほたるちゃんは、貴方たちの娘でしょ? もっとちゃんと見てあげてよ。ほたるちゃんが風邪を引くなんてめったにないのに、こんな時だってあの人は何もしようとしない」


< 196 / 318 >

この作品をシェア

pagetop