クリア・スカイ

「空野さんに、この絵本の記憶を見てほしいと思ったんです」

 柳さんは私を見ると、目を細めて笑った。ああ、この笑い方、すごく好き。


「私に、ですか?」

「はい。見てもらえますか? 僕の小さい頃の思い出を」

「――もちろん」


 座卓の中央に置かれた絵本にそっと触れてみる。動物に触れるように、人に触れるのと同じように、愛情を持ってそっと触れる。

 柳さんはその上に手を重ねて、絵本に優しく語りかけた。


 どうして柳さんが私に記憶を見せたいのかは分からない。彼は特に何も言わなかったし、特に理由はないのかもしれない。

 でも、嬉しかった。素直に嬉しいと思った。彼が私に、大切な記憶を見せたいと思ってくれる。それだけで今は十分だ。


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