天使のうた
少しずつクラスに慣れ始めた頃。
「今日は来てますように」
そんなことを考えながら、教室の扉を開ける。
いつも通りの風景。
仲のいい女の子同士が話している。
いつもパンを食べている男の子もいつも通りパンを食べていた。
自分の席へと向かう。
そこには、いつも通りじゃない風景があった。
私の隣の席に、見覚えのある後ろ姿。
綺麗な黒髪ストレート。透き通った瞳。
見た瞬間分かった。
「恭介…!!」
いきなり大声を出した私に、周りがざわめく。
でもそんなの気にする余裕はなかった。
恭介が、私の方を見る。
「恭介、私だよ!優香だよ!三年前、河川敷で、たくさん話聞いてもらった…」
嬉しくて涙がこぼれ落ちる。
恭介とこの喜びを共有したいという気持ちでいっぱいだった。
でも、そんな期待はあっさりと裏切られた。
「…あんた誰?」
変わらない澄んだ瞳で、
でもあの頃とは全く違った目つき。
そこには私を思い切り不可解な表情で見る恭介の姿。
先生の言葉が頭をよぎる。
『 頭を強く打って、記憶障害が表れてるようで 』
しんとなった教室に、
廊下の生徒の騒がしい声だけが響いた。