恋愛結婚させてください!
私が口をパクパクすると、
「あ、そうそう、ご近所に挨拶は済ませた?」と母が聞く。
「まだです。」とトウマ君が言うので、
「ちょうどよかった。ムギ、一緒に行ってらっしゃい。
ご近所なんだから、ちゃんと管理人さんにも挨拶してね。
独り暮らしの男の人の家に
若い女の子が黙って出入りしてたら困るでしょう?」とニコニコした。
ハイ、これ。と小さなクッキーの箱がいくつか入った袋を渡される。
「お隣と下のお家と管理人室。余るけど、勝手に食べちゃダメよ。
ムギの分は他に買ってあるんだから。後は管理組合の役員さんの分。
わかったらちゃんとご挨拶に行ってね。
お母さんがご飯の用意しておくから今のうちに行きなさい。」とふたりで追い出される。
やれやれ。
ここは最上階の5階の角部屋。ってことが玄関を出て、今わかった。
505号室。芦沢。って表札に書いてある。

「相変わらず、楽しいお母さんだね。」とトウマ君はくすんと笑って、
隣の家のチャイムを鳴らす。
待ってよ。
心の準備が出来てません。でも、
「はーい。」と赤ちゃんを抱いた女の人が出てくる。
「隣に引っ越して来ました、芦沢です。」とトウマ君がクッキーを出すと、
ノシに「あおい小児科」の文字と、芦沢って文字が並んで書いてある。
目が点になる。
ありえない。

隣の人が
「えーと?」と怪訝そうな顔を見せるので、
「…二代目です。まだ、総合病院に勤めているので不規則な生活になって
ご迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします。」と笑いをこらえたトウマ君の声。
「そうですか。良かった。
この子が大きくなるまであおい小児科に通えるってことですよね。
こちらこそ、よろしくお願いします。」と私にもニッコリしてもらえた。
「婚約者の蒼井 麦です。」とトウマ君が言って、
「ああ、あおい先生のお嬢さんなんですね。よろしくお願いします。」
とまた、ニコニコされてしまった。

婚約者じゃありません!とここで怒鳴るわけにもいかない。
私も笑って頭を下げた。

どうしたらいいのよ?






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