恋愛結婚させてください!
電源を入れると、ガラケーは生き返った。
「コムギが見たいって言ったんだからな。」とトウマ君はまだブツブツ言っている。

写真を開くと、
戴帽式の時のナースキャップを被った私の笑顔の写真があった。
看護学校の3年生の初めに撮ったものだと思う。
実習に本格的に行く前の儀式みたいなものだ。


「…なんでトウマ君が持ってるの?」と私はおもわず、声が出る。
「だから、嫌だったんだよ。勝手に写真を持ってるなんて
ストーカーみたいだろう。」とトウマ君は溜息を吐いた。

次の写真は高校に卒業式の私だ。
次は誕生日の時の写真。たぶん高校生時の。
高校の入学式。
家族旅行。
花火大会。
吹奏楽の発表会。
また、誕生日。

どんどん、さかのぼる。
小学4年で止まった。私は10歳だ。

「俺にとってコムギは家族だった。」とトウマ君は溜息をつく。
「兄弟のいなかった俺の、大切な妹だったんだ。」と私を見た。
「コムギは俺の顔を見ると、嬉しそうに駆け寄ってきてくれた。
家に電話すると明るい声で名前を呼んでくれた。
引っ越す前、俺の家は離婚寸前で、
俺の気持ちは暗かったけど、コムギが笑ってくれるとホッとした。
会えなくなっても、コムギの笑顔を思い出した。」

トウマ君は静かに話す。



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