デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
しばらくして、ドン、と大きな音が轟き、淡いピンク色の狼煙が上がった。

青空高くその煙は立ち上る。

馬に乗って進む二人の目にも、それは見えた。

「あれ……何ですか?シュリさん」

「王の外出を告げる狼煙だ。王宮の門を出て、王都の街に入るところだな」

ふと、自分たちが進む裏路地から、何筋か向こうの大通りがちらりと見えた。

通り沿いに店や住居を構える大勢の住民たちだろう、足早に大通りの脇に出て、ひざまずいている。

「何してるんですか?」

「大通り沿いに住む人間たちは、王が通る道に出て、必ず礼をしなくちゃならない。王都の繁栄を一番享受してる人間達ってことでな」

「そうなんですか……」

「ああ。それ以外の王都の民は、逆に家にいて、窓も戸も閉めて、静かに過ごさないといけないんだよ。王の邪魔にならないようにな」

桜はふと、お忍びで王と街に出た時に、彼が同じことを言っていたのを思い出した。

交通を止めて、皆が深く礼をする静かな中を通るのだと。

王の一行がこちらに向かい、自分たちは王宮に向かうということは、どこかで出会うことになる。

(絶対、見つからないようにしないと)

桜はきゅっと手を握った。

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